原はバッターボックスの手前で、入念に素振りをする。素振りをしながら原の脳裏には、先ほどのエラーが蘇ってくる。自分がミスをしなければ、逆転はされなかったはずだ・・・そのミスのために、チームが負けてしまったら、自分のせいだ。ここはなんとしてもヒットを打たなければ。そう思うと、自分の体が逆に硬くなるのを感じた。

バッターボックスにゆっくりと足を踏み入れた原は、じっとホームベースを見つめた。そしてゆっくりと武田の方に目をやる。

やたらと武田が大きく見えた。事実武田は平均よりも大柄な選手ではあるが、まるでマウンドが急に近くなったように見える。自分にのしかかっているプレッシャーがそう見せているのだろう。原はたまらずタイムをかけた。

一度バッターボックスをはずした原は、もう一度大きく息をついた。落ち着かなくては・・・そう思うほどに、体は硬さを増していく。


「原さ~ん!リラックス、リラックス!」


遠くでひとみの声が聞こえた。原がベンチに目をやると。一番前で体を乗り出しているひとみの姿が目に入った。ひとみは片手にメガホンを手にして、一生懸命に自分にエールを送っている。

それを見て、原がゆっくりと頷くと、ひとみは親指を立てて、ぐっと前に突き出した。原はもう一度深呼吸すると、バッターボックスに入りなおした。

『ずいぶん緊張してるみたいだな。それじゃ、最初はこれで行くか・・。』

マウンド上の武田は、大きなフォームから原のインコースを付く。体に当たるかというような厳しいコース。しかし、原はそれに臆することなく、大きく踏み込んでバットをボールにたたきつけた。

キン!

快音を残し、ボールはセンター前へ抜けた。

三塁の浅野がまず同点のホームを踏む。続いて武藤が逆転のホームイン。大高は三塁に、打った原は1塁に止まった。これで11-10。再度西応がリードを広げた。武田は原に打たれたことがよほど悔しかったのだろう。思わずグラブを地面に叩きつける。その態度に、審判が注意を与えた。

原は一塁ベース上でガッツポーズ一つ見せずに、ゆっくりとベンチのひとみに目をやった。うれしいというより、ほっとしていたというのが正しいだろう。これで、自分のエラーが帳消しになったからだ。そして自分にここでタイムリーを打たせてくれたのは、ひとみだということも原には分かっていた。ここまで自分たちを引っ張ってくれたのは、ほかならぬひとみだ。そのひとみに無様なプレーは見せられなかった。その気持ちが、原に逆転のタイムリーを打たせたのだろう。

後半に入ってもなお、止まらない両軍の攻撃。試合はますますもつれ始めていた。


~つづく~