『なんで?なんで今の打ち方で、あそこまで飛ぶの?信じられない・・。』
まだ習得中のナックルカーブとはいえ、ひとみはショックを隠せない。最初の打席でもそうだったが、完全にバットの先で捕らえた打球。それがいとも簡単にオーバーフェンスでは、投げる球が見当たらない。
『もう、あれしかないのかも・・。』
ひとみの頭の中で、葛藤が始っていた。青島対策に習得した「とっておき」のカーブ。これくらいしかもう通用しないのかもしれない。ひとみは迷っていた。迷いながらひとみの頭の中からは、まだ2点をリードしていることも、消え去ろうとしていた。
「タイム!」
ここで田島がタイムをかけた。そして、新しいボールを持って、ひとみのところへと向かう。内野陣も全員マウンドに集まってきた。
「涼風、大丈夫か?今のはまぐれだ。気にするな!」
武藤がひとみに言った。しかしひとみは顔を上げようとしない。
「涼風、長い試合ではこういうこともある。ただ、こういう時こそ落ち着かないといけない。今の一発は忘れろ。」
今度は浅野が声をかける。しかしひとみは黙ったままだ。
「相棒・・・。」
田島が静かに声をかけると、ひとみはようやく顔をあげた。そして、少しうるんだ目で田島を見た。その眼を見て、田島はひとみが何を思い悩んでいるのかが理解できた。ひとみはあのボールを投げようかと悩んでいるのだと。
「相棒・・・やっぱり、最初に戻そう。涼風ひとみのピッチングに!」
「・・え?・・・」
ひとみの表情が変わった。
「俺も考えすぎていたよ。お前のピッチングは、ストレートとスライダーだ。そのピッチングが一番涼風のピッチングを生かす攻め方だと思う。それで打たれたら仕方ない。相手が上だったんだ。」
ひとみの目にわずかながら光がよみがえったようにマウンドに集まった全員が感じた。すかさず、浅野がフォローする。
「そうだな。お前のピッチングをすればいいんだ涼風。何も考えるな。黙って田島のミットめがけて投げれば活路は広がる。」
「浅野さん・・。」
ひとみがまだ自信なさげに浅野を見上げる。
「そうだ、俺達はお前のピッチングにかけてきたんだ。結果は結果だ。お前のピッチングをしろ、涼風!」
武藤がそう言いながらひとみの背中を乱暴に叩く。
「武藤さん・・みんな・・・それでいいの?」
「何言ってる。ここまでこれたのも、お前のピッチングがあってこそだ。そのお前が打たれたなら、仕方ないさ。」
今度は大石がフォローする。ひとみは改めて田島の顔を見つめた。田島はやさしい笑みを作りながらうなづいた。ひとみも、ゆっくりとうなずく。その眼には、またひとみらしい輝きを取り戻しかけていた。
「よし!みんなしっかり守るぞ!」
全員が浅野の掛け声でマウンドから散ってい行く。ひとりマウンドに残されたひとみは、帽子のつばを押さえて、ぐっと帽子をかぶりなおす。
そうだ。自分らしいピッチングをしよう!みんなが言うように、自分の信じたボールを投げよう!ひとみは、そう自分に言い聞かせた。
バッターボックスには、5番の大月が入った。ひとみは自分のフォームを確認するように、ゆっくりとモーションを起こすと、アウトコース低めに構えられた田島のミットめがけて白球を投げ込んだ。伸びのあるボールがあっという間にミットに収まる。大月はまったく反応できずにそのボールを見逃す。
「ストライク!」
審判の手があがったと同時に、スタンドからどよめきが起きた。スコアーボードの電光掲示板に示された球速表示に、誰もが眼を疑った。
152キロ
確かにそう表示されていた。140キロ台のひとみの速球にも、誰もが驚いたが、ここにきて150キロを超える速球。西応ナイン全員の励ましと信頼が、ひとみに新たな力を与えたようだった。
~つづく~
まだ習得中のナックルカーブとはいえ、ひとみはショックを隠せない。最初の打席でもそうだったが、完全にバットの先で捕らえた打球。それがいとも簡単にオーバーフェンスでは、投げる球が見当たらない。
『もう、あれしかないのかも・・。』
ひとみの頭の中で、葛藤が始っていた。青島対策に習得した「とっておき」のカーブ。これくらいしかもう通用しないのかもしれない。ひとみは迷っていた。迷いながらひとみの頭の中からは、まだ2点をリードしていることも、消え去ろうとしていた。
「タイム!」
ここで田島がタイムをかけた。そして、新しいボールを持って、ひとみのところへと向かう。内野陣も全員マウンドに集まってきた。
「涼風、大丈夫か?今のはまぐれだ。気にするな!」
武藤がひとみに言った。しかしひとみは顔を上げようとしない。
「涼風、長い試合ではこういうこともある。ただ、こういう時こそ落ち着かないといけない。今の一発は忘れろ。」
今度は浅野が声をかける。しかしひとみは黙ったままだ。
「相棒・・・。」
田島が静かに声をかけると、ひとみはようやく顔をあげた。そして、少しうるんだ目で田島を見た。その眼を見て、田島はひとみが何を思い悩んでいるのかが理解できた。ひとみはあのボールを投げようかと悩んでいるのだと。
「相棒・・・やっぱり、最初に戻そう。涼風ひとみのピッチングに!」
「・・え?・・・」
ひとみの表情が変わった。
「俺も考えすぎていたよ。お前のピッチングは、ストレートとスライダーだ。そのピッチングが一番涼風のピッチングを生かす攻め方だと思う。それで打たれたら仕方ない。相手が上だったんだ。」
ひとみの目にわずかながら光がよみがえったようにマウンドに集まった全員が感じた。すかさず、浅野がフォローする。
「そうだな。お前のピッチングをすればいいんだ涼風。何も考えるな。黙って田島のミットめがけて投げれば活路は広がる。」
「浅野さん・・。」
ひとみがまだ自信なさげに浅野を見上げる。
「そうだ、俺達はお前のピッチングにかけてきたんだ。結果は結果だ。お前のピッチングをしろ、涼風!」
武藤がそう言いながらひとみの背中を乱暴に叩く。
「武藤さん・・みんな・・・それでいいの?」
「何言ってる。ここまでこれたのも、お前のピッチングがあってこそだ。そのお前が打たれたなら、仕方ないさ。」
今度は大石がフォローする。ひとみは改めて田島の顔を見つめた。田島はやさしい笑みを作りながらうなづいた。ひとみも、ゆっくりとうなずく。その眼には、またひとみらしい輝きを取り戻しかけていた。
「よし!みんなしっかり守るぞ!」
全員が浅野の掛け声でマウンドから散ってい行く。ひとりマウンドに残されたひとみは、帽子のつばを押さえて、ぐっと帽子をかぶりなおす。
そうだ。自分らしいピッチングをしよう!みんなが言うように、自分の信じたボールを投げよう!ひとみは、そう自分に言い聞かせた。
バッターボックスには、5番の大月が入った。ひとみは自分のフォームを確認するように、ゆっくりとモーションを起こすと、アウトコース低めに構えられた田島のミットめがけて白球を投げ込んだ。伸びのあるボールがあっという間にミットに収まる。大月はまったく反応できずにそのボールを見逃す。
「ストライク!」
審判の手があがったと同時に、スタンドからどよめきが起きた。スコアーボードの電光掲示板に示された球速表示に、誰もが眼を疑った。
152キロ
確かにそう表示されていた。140キロ台のひとみの速球にも、誰もが驚いたが、ここにきて150キロを超える速球。西応ナイン全員の励ましと信頼が、ひとみに新たな力を与えたようだった。
~つづく~