一点差に追い上げられた西応。2回は1番からの好打順。速水からの攻撃だ。

速水は初球からまたセーフティーバントを試みる。絶妙のバントがライン上に転がった。間に合わないと見たサードがそれを見送るが。ボールはライン上で止まってしまう。速水が一塁に出た。

武田は当然のように、牽制球を送りながら速水の盗塁を阻止しようとする。しかし、3回目の牽制球が大きく右にそれ、速水は難なく2塁へ向かった。

『くそ!俺としたことが・・・』

武田は暴投を悔やんだが、あとのまつりだ。

大石は、きっちりと送りバントを決め、ワンナウト3塁。続く浅野には、2球目を痛打され、また1失点。西応の攻撃はまだ衰えていないようだ。


「これはどうなるか、まったく予測がつかなくなったな・・。」

観客席で新田が複雑な表情を浮かべる。

「え?でも、まだうちのほうが打ち勝ってますよ。」

晴美が不思議そうに尋ねる。

「涼風の調子も悪くはないが、上野原実業のバッターは涼風のスライダーを完全に見切っている。これから先、何点取られるかわからん・・。」

「それだけ、ひとみを研究してきてるってことですか?」

新田が頷く。

「ああ。ただ、上野原実業の誤算は武田だ。俺の分析でも、武田は安定しているときはすばらしいが、打たれだすと頭に血が上りやすい。そうなると、意地になって力でねじ伏せようとする。そんなときは対外打たれるもんだ。いまだって、かなりカリカリしてるだろう。」

「じゃあ・・この試合は・・・」

「2点や3点の差は、あっという間にひっくり返る試合だってことだ。涼風のほうがまだ冷静に試合を受け止めているだろうから、その分西応が有利とも言えるが、予断は許さない・・。」

晴美は不安そうな顔でグランドに目を移した。


浅野を1塁において武藤を迎えた武田は、シュートを引っ掛けさせ、ショートゴロになる。セカンドは封殺したが、一塁に武藤が残った。これでツーアウト1塁。

なんとかこれ以上の失点は避けたいところだが、前の打席でホームランを打っている片岡に打順が回った。

武田は長打を警戒して、アウトコースにボールを集める。しかし2-1からの4球目をセンター前にはじき返される。武藤は二塁をけって3塁へ向かった。センターからボールが帰ってきたが、これがレフと方向へ大きくそれ、武藤は一気にホームへ帰ってきた。打った片岡も2塁に進む。

武田は続く大高をファーストファールフライに討ち取ったが、この回2点を追加され、得点は8-5と点差を引き離されてしまった。


そして、3回。田島がマウンド上のひとみに駆け寄り声をかけた。

「スライダーをずいぶん研究されてるな。相棒、少し予選で投げたナックルカーブも混ぜてみないか?」

「そうね・・。なんとか、ピッチングパターンを代えて打たせないといけないものね。わかった。やってみるね。」

ひとみは汗でびっしょりになった額を袖でぬぐいながら言った。まだ表情には笑顔が残っている。田島はその笑顔に、まだひとみが緊張感を保っているように感じた。田島は、ゆっくりとホームへ戻る。

この回は武田からだ。先ほどは力でホームランを打たれている。今回も甘いボールが来たら、武田は軽々とスタンドへ持っていくだろう。田島は初球からナックルカーブを要求する。ひとみがそれに頷く。

初球、ひとみはナックルカーブをアウトコースへと投げ込む。武田はそれを踏み込んで打ちに行った。

ゴツン!という鈍い音。またバットの先に当たったようだ。しかし、打球は大きく伸びる。ボールは折からの風に乗り、そのままライトスタンドへ飛び込んでいった。

今日2本目、2打席連続のホームラン。これでまた西応は2点のリードと変わった。


~つづく~