さて、話を少し戻しましょう。

いくつかのフレーズを作っていくと、そのフレーズがひとまとまりにできるフレーズが重なって出てくるようになります。それが、物語の「章」になる部分です。章は一つの物語の中の、小さな物語のひとつです。言ってみれば、たくさんの小さな物語の塊が一つの物語になっていると考えることができます。ここでは、その小さな章にあたる物語を「サブストーリー」と呼ぶことにしましょう。

「君との約束」を例に取りましょう。主人公の矢島は、少しずつですがまひるとのふれあいの中で、段階的に心を開いていきます。その中で矢島が大きく心の中にある扉をひらく瞬間があります。それは、初めてまひるのことを名前で呼んだ瞬間です。

矢島の心理からすると、自然な形で「沢野さん」が「まひる」に変わることは難しいでしょう。ですから、私はサブストーリとして、偶然とアクシデントで「まひる」と呼ばせることにしました。とっさのときというのは、思いもよらない行動や言動を口走ったりするものです。矢島自身もきっと「まひる」と呼びたくなってきたのを見計らっての、ハイキングでのアクシデントを設定したわけです。

物語を効果的に表現するときに、このサブストーリーをいかにつなぐかがキーになります。特に重要と思われるサブストーリーには、描写だけではなく、いつのタイミングでそのサブストーリーを入れるかも重要です。フレーズつくりのときにも言いましたが、そのフレーズにプライオリティーをつける意味もそこにあります。プライオリティーが高いフレーズから出てきたサブストーリーは特に大切に細かく考えることが必要です。

さて、次回は「キーアイテム」です。