9回裏。やはり、ひとみは疲れからか、球威が次第に衰えてきていた。それでも、スライダーとチェンジアップ、シンカー、ナックルと、あらゆる変化球を駆使して、何とか9回を無得点に抑えた。

そして延長戦。

日差しはさらに強く照りつける。温度計はすでに36度を指していた。普通にしているだけでも汗が噴出す状況で、試合はさらに過酷なものとなっていた。

伊丹は相変わらずのピッチングで、打者のタイミングをはずし、打たせて取る省エネピッチングを続けていた。延長12回を投げてわずか4安打の散発では、西応の小野田も打つ手がなかった。

一方のひとみは、毎回のようにランナーを背負うピッチング。伊丹とは対照的だった。打たれたヒットは16本。4四死球という不安定なピッチングだった。それでも、要所ではきっちりと押さえ相手に得点を許さない。

そして、延長13回を迎えた。この回は7番からの下位打線。得点は難しい状況だ。そこで小野田が浅野に声をかけた。

「浅野、少し肩をあたためておけ。」

全員が小野田のほうを見た。小野田は、ひとみをあきらめ浅野につなげる作戦なのだろうか?その視線を感じてか、小野田が続けた。

「涼風を代えるかどうかは、もう少し様子を見る。それより、浅野がピッチング練習をすることで、相手にプレッシャーをかけることができる。そのためにキャッチボールをしておけと言ったんだ。ただ、この回得点のチャンスになれば、涼風に代打もありうる。」

そこまで話した後で、ベンチ奥に座っていた選手に小野田が声をかけた。

「不破、奥で素振りしておけ。」

「・・あ・・・はい!」

不破は、あわててバットを持つとダッグアウトの裏へ駆け込んだ。


そうこうする間に、7番に入っていた原が倒れ、田島に打席が回ってきた。田島もまた、ひとみを助けたい一心だった。もっと早く点を取っていれば、ひとみを楽に投げさせられたのに・・・。そんな自分が歯がゆく思えて仕方なかった。

しかし、その思いとは裏腹に、田島は3球目を打たされセカンドゴロになる。必死にヘッドスライディングを試みるも、思いは届かずアウトとなった。田島はひとみにすまなそうにうなだれながらベンチへ戻った。

そしてラストバッターのひとみが打席に立った。この場面では、まだ小野田はひとみを変えるつもりはないようだった。

しかし、次の瞬間、一瞬場内がどよめいた。

ひとみはゆっくりと右打席に入ったのだ。伊丹は右ピッチャー、スイッチヒッターのひとみは左打席に入るのが普通だ。それをあえて右打席に入ったのだ。


応援席にいた晴美と新田も息を呑んだ。

「涼風・・・あいつ、自分ひとりで何とかするつもりか・・・?」

新田は、ひとみが何をしようとしているのかがはっきりと読み取れていた。

「新田さん?」

新田の驚きの表情に、晴美が不安そうな顔をしながら問いかける。

「あいつ、この打席はホームラン狙ってやがる・・。左打席でもホームランを打っているが、涼風の場合は右打席のほうが長打力がある。だから、一発を狙ってあえて右打席に入ったんだ。」

新田は打席に立ったひとみから出ている強いオーラを感じながら、息を呑んでひとみを見つめていた。

~つづく~