ついにその日がやってきた。大会初日第二試合。
まだ、開会式の興奮もさめやらないまま、選手たちはグランドで自分の気持ちを抑えるように、キャッチボールを始めていた。
ひとみはマウンドでその感触を確かめている。そして、マウンド上でくるりと観客席を見回す。夏の日差しに照らされた両軍の応援団。そのなかでせわしなくうちわが動いている。今日もあつくなりそうだった。
そんなひとみの後ろから田島が声をかけた。
「どうした、涼風?」
「うん・・・すごいなぁって・・・ここで、野球ができるんだなって思ったら、なんとなく信じられない感じ。」
ひとみはまだスコアーボードの方向に眼をやったままだ。その視線の先には、三本のポールにはためく旗が揺れ動いている。
「俺だって、まだ実感ないよ。一年生で、ここまでこれたなんて・・。」
田島も何かをかみしめるように言った。ひとみがゆっくりと田島の方を振り返った。
「今日は楽しもうね。私も楽しんで野球がしたい。だから、相棒も楽しんでね。」
ひとみにはいつもどおりの笑顔が戻ってきていた。新田から青島対策を伝授され、少し不安が消えたのだろう。いまのひとみの頭の中は、今日の試合を楽しむことでいっぱいのようだ。田島は、ほっとした表情で、ひとみにボールを手渡した。ひとみがそれをしっかりと受け取る。
大隅工業対西応高校の試合は、大隅工業の先攻で始まった。
「プレイ!」
審判が手を挙げると同時に、大きなサイレンの音が鳴り響く。ひとみはそのサイレンが鳴りやまぬうちに、得意の速球を投じる。ひとみの伸びのある速球にバッターが空振りする。ひとみのボールには、予選にもまして、重みが増しているようだった。
ひとみは先頭打者を追い込むと、4球目をセカンドゴロに打ち取る。西応応援団から大きな歓声と拍手がわく。
「涼風のやつ、調子がよさそうだな・・。」
応援団席の真っ只中で、新田が晴美と一緒に試合を見守っていた。晴美は大きめの帽子をかぶり、日焼け対策万全の恰好で、メガホンをたたきながら応援している。
「新田さん。浅野さんからちらっと聞いたんですけど、各高校の優勝確率も出しているんですって?」
「浅野のやつ、そんなこと言ったのか?」
新田がちょっと驚いたように言った。
「あの・・・西応の優勝確率って、どれくらいだったんです?」
「あのな・・・そんなこと聞いて、楽しみがなくなってもいいのか?もし、俺が0%って言ったらどうすんだお前・・。」
「新田さんが、そんな数字出すはずないと思ってますからぁ。」
晴美は、周りの応援団の声にかき消されないように大声で言った。新田は頭をかきながら、しぶしぶ答える。
「33%ってとこだな。」
「ええ?そんなものなんですか?もっと高いと思ったのに・・。」
「全国の猛者が集まってるんだ。そう簡単に勝てるもんか。」
新田は試合に集中したいのか、晴美の方を見ようともしない。そんな新田の態度に、晴美は少し困ったような表情を見せる。
「でも・・・今日は勝てますよね?」
晴美としては、どうしても新田の分析が気になるらしい。新田は苦笑しながら答える。
「涼風がいつものピッチングをすればな。」
ひとみは、初回を3者凡退に抑え上々の立ち上がりを見せた。そして、1回裏の西応の攻撃を迎えた。
大隅工業のピッチャーは島津。130キロ後半のストレートに、フォークを武器にしているピッチャーだ。速水がゆっくりと左打席に立った。
初球。速水は早くもセーフティーバントで出塁すると、大石がきっちりセカンドに速水を送る。3番の浅野は3球目をセカンドゴロとして、2アウト3塁になった。次は主砲の武藤だ。
『早めに点を取って、涼風を楽にしてやらないと・・』
武藤の気持はそれ一つだった。武藤はファールで粘りながら、カウントは2-2で投球数は7球目。島津はインコースにフォークで三振を取りに来る。しかし、わずかに高めに浮いたフォークを武藤が強振すると、ライナー性の打球が3塁線を襲った。サードが横っ飛びで飛びつくが、ボールはそのグラブの下を抜けて、レフト線を転々と転がる。
速水はそれを見てゆっくりとホームを踏んだ。幸先のいい先取点だった。西応応援団から大歓声が上がった。ひとみも、ベンチ前で行っていたキャッチボールの手を休め、嬉しそうに拍手している。その姿は、数日前のあの暗い影は見えなかった。
~つづく~
まだ、開会式の興奮もさめやらないまま、選手たちはグランドで自分の気持ちを抑えるように、キャッチボールを始めていた。
ひとみはマウンドでその感触を確かめている。そして、マウンド上でくるりと観客席を見回す。夏の日差しに照らされた両軍の応援団。そのなかでせわしなくうちわが動いている。今日もあつくなりそうだった。
そんなひとみの後ろから田島が声をかけた。
「どうした、涼風?」
「うん・・・すごいなぁって・・・ここで、野球ができるんだなって思ったら、なんとなく信じられない感じ。」
ひとみはまだスコアーボードの方向に眼をやったままだ。その視線の先には、三本のポールにはためく旗が揺れ動いている。
「俺だって、まだ実感ないよ。一年生で、ここまでこれたなんて・・。」
田島も何かをかみしめるように言った。ひとみがゆっくりと田島の方を振り返った。
「今日は楽しもうね。私も楽しんで野球がしたい。だから、相棒も楽しんでね。」
ひとみにはいつもどおりの笑顔が戻ってきていた。新田から青島対策を伝授され、少し不安が消えたのだろう。いまのひとみの頭の中は、今日の試合を楽しむことでいっぱいのようだ。田島は、ほっとした表情で、ひとみにボールを手渡した。ひとみがそれをしっかりと受け取る。
大隅工業対西応高校の試合は、大隅工業の先攻で始まった。
「プレイ!」
審判が手を挙げると同時に、大きなサイレンの音が鳴り響く。ひとみはそのサイレンが鳴りやまぬうちに、得意の速球を投じる。ひとみの伸びのある速球にバッターが空振りする。ひとみのボールには、予選にもまして、重みが増しているようだった。
ひとみは先頭打者を追い込むと、4球目をセカンドゴロに打ち取る。西応応援団から大きな歓声と拍手がわく。
「涼風のやつ、調子がよさそうだな・・。」
応援団席の真っ只中で、新田が晴美と一緒に試合を見守っていた。晴美は大きめの帽子をかぶり、日焼け対策万全の恰好で、メガホンをたたきながら応援している。
「新田さん。浅野さんからちらっと聞いたんですけど、各高校の優勝確率も出しているんですって?」
「浅野のやつ、そんなこと言ったのか?」
新田がちょっと驚いたように言った。
「あの・・・西応の優勝確率って、どれくらいだったんです?」
「あのな・・・そんなこと聞いて、楽しみがなくなってもいいのか?もし、俺が0%って言ったらどうすんだお前・・。」
「新田さんが、そんな数字出すはずないと思ってますからぁ。」
晴美は、周りの応援団の声にかき消されないように大声で言った。新田は頭をかきながら、しぶしぶ答える。
「33%ってとこだな。」
「ええ?そんなものなんですか?もっと高いと思ったのに・・。」
「全国の猛者が集まってるんだ。そう簡単に勝てるもんか。」
新田は試合に集中したいのか、晴美の方を見ようともしない。そんな新田の態度に、晴美は少し困ったような表情を見せる。
「でも・・・今日は勝てますよね?」
晴美としては、どうしても新田の分析が気になるらしい。新田は苦笑しながら答える。
「涼風がいつものピッチングをすればな。」
ひとみは、初回を3者凡退に抑え上々の立ち上がりを見せた。そして、1回裏の西応の攻撃を迎えた。
大隅工業のピッチャーは島津。130キロ後半のストレートに、フォークを武器にしているピッチャーだ。速水がゆっくりと左打席に立った。
初球。速水は早くもセーフティーバントで出塁すると、大石がきっちりセカンドに速水を送る。3番の浅野は3球目をセカンドゴロとして、2アウト3塁になった。次は主砲の武藤だ。
『早めに点を取って、涼風を楽にしてやらないと・・』
武藤の気持はそれ一つだった。武藤はファールで粘りながら、カウントは2-2で投球数は7球目。島津はインコースにフォークで三振を取りに来る。しかし、わずかに高めに浮いたフォークを武藤が強振すると、ライナー性の打球が3塁線を襲った。サードが横っ飛びで飛びつくが、ボールはそのグラブの下を抜けて、レフト線を転々と転がる。
速水はそれを見てゆっくりとホームを踏んだ。幸先のいい先取点だった。西応応援団から大歓声が上がった。ひとみも、ベンチ前で行っていたキャッチボールの手を休め、嬉しそうに拍手している。その姿は、数日前のあの暗い影は見えなかった。
~つづく~