リーグ戦が終わって1週間が過ぎようとしていたある日。ひとみはまだショックが抜けきれない様子で、ひとり学校からの帰り道を歩いて帰宅しようとしていた。ひとみは罪悪感と自分の無力さを感じて、胸が押しつぶされそうだった。1週間たっても、その自責の念は消えることはなかった。

「元気ないね、ひとみ・・。」

日本語で、誰かがひとみに声をかけた。流暢な日本語だ。ひとみは、声の主のほうにゆっくりと振り返った。

そこに立っていたのは青島だった。ひとみの目の色が変わった。

「優勝できなくて落ち込んでいるのかい?」

口元に笑みを浮かべながら、青島はゆっくりとひとみに近づいてきた。ひとみは、半歩後に身を引いた。

「何の用?」

ひとみは青島をにらみつけるように見つめた。青島は、その視線にたじろぐ様子もなく、話を続ける。

「おや?ご機嫌斜めのようだね。」

「当たり前でしょ?あなた・・・自分のしたことが分かってるの?」

ひとみは心の奥で沸騰しそうな怒りを抑えながら言った。

「あれは、アクシデントさ。確かに、彼が怪我をしたのは不幸かもしれないが、それは彼が弱かっただけだよ。弱いやつは、遅かれ早かれああなる。その相手がたまたま僕だっただけだ。勝負の世界というのはそういうものだよ、ひとみ。」

青山は自分がいかにも正等であるかのように言った。ひとみの怒りはさらに増幅する。抑えようがない怒りの中で、ひとみは青島をにらみつける。

「そんな目で見るなよ。ひとみも、いずれ分かる。勝負の世界は、勝者と敗者しかない。ナンバーワンは一人しかいない。僕は将来ナンバーワンになる人間だ・・・僕以外はみんなカスだ。」

青島はそういいながら、ひとみのすぐ目の前まで近づいてきた。それでなくても大柄な青島が、なお大きく壁のようにひとみには映った。

「君も女性のプレイヤーとしては、きっとナンバーワンになれるだろう。君の野球センス・実力は僕も認めてるよ。・・・どうだい、いっそ僕のガールフレンドにならないか?」

「!・・・何を言い出すの、突然・・・!」

ひとみは唐突な青島の申し出に戸惑いを隠せない。

「君は美人だし、野球もうまい。君と僕なら、釣り合いが取れる。誰が見ても最高のカップルさ。いい話だと思うけど?」

青島は自信たっぷりにそういいきった。

ひとみは一瞬足元に視線を落としたが、すぐに顔を上げる。そして、次の瞬間、ひとみはその右手で青島の左の頬を思い切り叩いていた。一瞬、青島の表情がこわばった。

「これが私の答え!理解してくれたかしら?」

ひとみはそれだけ言い放つと、青島に背中を向けて早足で歩き出した。もう二度と青島の顔は見たくなかった。

「ひとみ・・・後悔するよ!この僕の申し出を断ったこと・・・必ず後悔する!」

ひとみの後から、先ほどとはうって変わった口調で青島が言った。しかし、ひとみは振り向くことなく歩き続ける。ひとみは早くこの場を離れたかった。青島の声の届かないところに行きたかった。ひとみは、身勝手な青島の言葉を思い出し、またあふれ出る悲しみと怒りを抑えられなかった。

ひとみの頬を再び涙が流れた。

ひとみはその涙をぬぐうことも忘れ、歩き続けた。どこか遠くに行ってしまいたかった。

そのときのひとみの心は、青島によってずたずたに引き裂かれていた・・・。


~つづく~