3年前、ひとみは中学に上がり、地元の中学生野球チームであるレッズに入団した。そこでひとみは、小学校からの友人であるデビッド・ルイスと共に地元のリーグ戦に参加していた。
中学校に上がったばかりであるが、ひとみはすでに120キロ後半の速球を投げ、チームでスターター(先発投手)の3番手としてレギュラーを獲得していた。デビッドも、持ち前の長打力でひとみ同様1年生ながら、6番ファーストで定位置を確保していた。ひとみもすでにリーグ戦で2勝をあげていた。
そんなある日、ひとみが当番予定の試合相手は、リーグ首位をレッズと並んで走っていたマリナーズ。そのなかに、ひときわ大きな体格をした選手がいた。
「大きな選手ね。あの人、3年生?」
ひとみがデビッドにたずねた。
「2年生だってさ。去年までシカゴにいたそうだけど、こっちに引っ越してきたらしい。」
「へえ・・・2年生。何処守ってるの?」
「ひとみと同じピッチャーだよ。でも、投げないときはファーストに入るらしい。」
「そうなんだ・・・でも、キャッチボールだって言うのに、すごい球投げるね。」
ひとみは、その選手のボールを興味深そうに見つめていた。中学生とは思えない重そうなボールだった。長身から投げ下ろすようなフォーム。今日は苦戦しそうだと、ひとみは思った。そのとき、チームの監督がひとみに声をかけた。
「きになるのか、ひとみ?」
「あ、はい。だって、すごい球投げてるから。」
「確かにすごい球を投げる。130キロ以上あるだろう・・。彼は日本人とのハーフでジャック・青島。日本語も話せるそうだ・・。だが、ちょっと悪いうわさもある。」
監督の表情が曇った。ひとみは首をかしげる。
「なんですか?悪いうわさって・・。」
「ちょっとラフなプレーが多いらしい。ひとみ、ファーストカバーに入るときは気をつけろ。」
「はい、わかりました。」
ひとみは、今と変わらない笑顔で答えた。しかし、ひとみにはそのとき監督が言った心配が、どういうものであるのか、まだ見当がつかなかった。少し、エキサイトしやすい性格なのだろうくらいにしか思っていなかったのだ。しかし、その日の試合は、ひとみにとって忘れられない試合となった。
試合開始直後、それは起こった。
ランナーを1塁において、打順は4番に座っていた青島の打順だった。ひとみは、持ち前の速球をコーナーに投げ、青山を追い込む。追い込んだ後、決め球のスライダーがコース一杯に投げられた。青島はそれを引っ掛け、セカンドゴロとなる。セカンドがそのゴロを無難にさばいて、ファーストに送球。ゆうゆうアウトと思われた次の瞬間だった。
ドカッ!
鈍い音がグランドに響いた。
ファーストベースにヘッドスライディングしてきた青島とデビッドが、ベース上で激しく衝突した。デビッドはもんどりうって倒れた。
「アウト!」
審判がアウトを宣告したが、倒れたデビッドは起き上がれない。
「デビッド!」
ひとみがデビッドの下へ駆け寄る。見ると、デビッドは左腕を押さえて苦悶の表情を浮かべている。顔色も真っ青だ。
「担架だ!」
審判が叫んだ。あわてて、数人の選手が担架を抱えてデビッドに駆け寄る。ちょうど観客席にいた看護師がグランドに降りて、デビッドの様子を診る。
「多分・・・腕が折れてるわ。急いで病院に運んで!」
監督が電話で救急車を呼んだ。試合開始早々から、場内は騒然としている。
5分ほどして救急車が到着。デビッドは、先ほどの看護士と両親に付き添われ、救急車に運び込まれた。
一方、デビッドと交錯した青島のほうは平然としている。あれだけ激しくぶつかったのに、青島は怪我一つしていないようだ。
「彼・・大丈夫なのかしら・・?」
ひとみは敵チームである青島のことも心配している。そんなひとみに監督が言った。
「彼は、冬場はフットボール選手として活躍しているんだ。フットボールならあれくらいの接触は普通だろう。しかし、デビッドはそうはいかない・・・あの体で衝突したら、ひとたまりもない。」
監督は、恐れていた事態が起きてしまったことを、悔やんでいるように言った。しかし、ひとみはそのときはまだそれが、「不幸なアクシデント」だと思っていた。
~つづく~
中学校に上がったばかりであるが、ひとみはすでに120キロ後半の速球を投げ、チームでスターター(先発投手)の3番手としてレギュラーを獲得していた。デビッドも、持ち前の長打力でひとみ同様1年生ながら、6番ファーストで定位置を確保していた。ひとみもすでにリーグ戦で2勝をあげていた。
そんなある日、ひとみが当番予定の試合相手は、リーグ首位をレッズと並んで走っていたマリナーズ。そのなかに、ひときわ大きな体格をした選手がいた。
「大きな選手ね。あの人、3年生?」
ひとみがデビッドにたずねた。
「2年生だってさ。去年までシカゴにいたそうだけど、こっちに引っ越してきたらしい。」
「へえ・・・2年生。何処守ってるの?」
「ひとみと同じピッチャーだよ。でも、投げないときはファーストに入るらしい。」
「そうなんだ・・・でも、キャッチボールだって言うのに、すごい球投げるね。」
ひとみは、その選手のボールを興味深そうに見つめていた。中学生とは思えない重そうなボールだった。長身から投げ下ろすようなフォーム。今日は苦戦しそうだと、ひとみは思った。そのとき、チームの監督がひとみに声をかけた。
「きになるのか、ひとみ?」
「あ、はい。だって、すごい球投げてるから。」
「確かにすごい球を投げる。130キロ以上あるだろう・・。彼は日本人とのハーフでジャック・青島。日本語も話せるそうだ・・。だが、ちょっと悪いうわさもある。」
監督の表情が曇った。ひとみは首をかしげる。
「なんですか?悪いうわさって・・。」
「ちょっとラフなプレーが多いらしい。ひとみ、ファーストカバーに入るときは気をつけろ。」
「はい、わかりました。」
ひとみは、今と変わらない笑顔で答えた。しかし、ひとみにはそのとき監督が言った心配が、どういうものであるのか、まだ見当がつかなかった。少し、エキサイトしやすい性格なのだろうくらいにしか思っていなかったのだ。しかし、その日の試合は、ひとみにとって忘れられない試合となった。
試合開始直後、それは起こった。
ランナーを1塁において、打順は4番に座っていた青島の打順だった。ひとみは、持ち前の速球をコーナーに投げ、青山を追い込む。追い込んだ後、決め球のスライダーがコース一杯に投げられた。青島はそれを引っ掛け、セカンドゴロとなる。セカンドがそのゴロを無難にさばいて、ファーストに送球。ゆうゆうアウトと思われた次の瞬間だった。
ドカッ!
鈍い音がグランドに響いた。
ファーストベースにヘッドスライディングしてきた青島とデビッドが、ベース上で激しく衝突した。デビッドはもんどりうって倒れた。
「アウト!」
審判がアウトを宣告したが、倒れたデビッドは起き上がれない。
「デビッド!」
ひとみがデビッドの下へ駆け寄る。見ると、デビッドは左腕を押さえて苦悶の表情を浮かべている。顔色も真っ青だ。
「担架だ!」
審判が叫んだ。あわてて、数人の選手が担架を抱えてデビッドに駆け寄る。ちょうど観客席にいた看護師がグランドに降りて、デビッドの様子を診る。
「多分・・・腕が折れてるわ。急いで病院に運んで!」
監督が電話で救急車を呼んだ。試合開始早々から、場内は騒然としている。
5分ほどして救急車が到着。デビッドは、先ほどの看護士と両親に付き添われ、救急車に運び込まれた。
一方、デビッドと交錯した青島のほうは平然としている。あれだけ激しくぶつかったのに、青島は怪我一つしていないようだ。
「彼・・大丈夫なのかしら・・?」
ひとみは敵チームである青島のことも心配している。そんなひとみに監督が言った。
「彼は、冬場はフットボール選手として活躍しているんだ。フットボールならあれくらいの接触は普通だろう。しかし、デビッドはそうはいかない・・・あの体で衝突したら、ひとたまりもない。」
監督は、恐れていた事態が起きてしまったことを、悔やんでいるように言った。しかし、ひとみはそのときはまだそれが、「不幸なアクシデント」だと思っていた。
~つづく~