夕方6時。全員が小野田のしていした駅前の焼肉屋に集合していた。すでに、私服に着替えたナインが、山もりに盛られた肉が置かれたテーブルの周りに腰かけている。その輪の中には、やはり晴美がちゃっかり混じっている。野球部のマネージャの女子高生と、なにやら楽しそうに談笑している。

全員がそろったのを確認すると、小野田が立ち上がる。

「今日は本当にお疲れさん!今日はおれのおごりといいたいところだが、理事長がすべてだしてくれるそうだ。今日は好きなだけ食べていいそうだ。今日は食べて食べて、甲子園で大暴れする体力をつけておいてくれ!おい、浅野何か言え!」

浅野は小野田に促され、少々遠慮がちに立ち上がった。

「今年は涼風と田島が入ってくれたおかげで、甲子園に行くことができた。今日は二人が主賓だ。みんなで二人の労をねぎらおう。」

全員が拍手する。田島はきょろきょろしながら、少々戸惑っている。一方隣に座っているひとみは嬉しそうに、全員の顔を見まわして、何度か頭を下げた。

「よし、それじゃぁ、乾杯は俺が・・・。」

そういって武藤が立ち上がる。全員が目の前のグラスにドリンクをついで、目の前にかかげた。

「では・・・西応高校野球部、甲子園出場を祝して乾杯!」

「かんぱーい!」

全員が大合唱して、グラスを合わせる。それと同時に全員の手が、焼き肉に伸びる。さすがに伸び盛りの高校生、食べるスピードも量もちがう。あっという間に、焼き肉の皿が減っていく。

「すいませーん!カルビお変わりお願いしますー!」

速水が空になった大皿を掲げながら、店員に追加の注文をする。

その時、貸し切り状態の店内に、ひとり入ってきた人物がいた。全員がそちらに目をやると、そこに立っていたのは、あの新田だった。

「新田さん!」

思わず田島が立ち上がる。ひとみも、嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「俺が呼んだんだ。」
「私が呼んだの!」

浅野と晴美がほぼ同時に言った。二人は、はっとして顔を見合わせた。どうやら、二人ともそれぞれに新田をこの祝勝会に呼んだらしい。

「新田さん、とにかく座って!」

ひとみが席を勧める。新田は苦笑しながらテーブルのあいている席に腰かけた。

「二人から呼び出されちゃ、来ないわけにはいかないからな・・。」

新田は、浅野と晴美を交互に見ながら言った。ひとみは、新田にすっとドリンクのボトルを差し出した。

「はい、どうぞ。」

いつもどおりのひとみの笑顔だった。新田は前にあったグラスを取ると、ひとみはそこに飲み物を注ぐ。

「新田・・・俺達が甲子園に行けたのは、お前のおかげだ。一緒に祝ってくれるか?」

浅野が新田に言った。新田は一度視線を落としたが、すぐに顔を上げて言った。

「甲子園に行くのを祝うつもりはない・・・今日は、お前たちの甲子園での必勝祈願で着たつもりなんだがな・・・。行っただけで、負けて帰ってくるつもりはないんだろ?」

新田らしい遠まわしな言い方だった。新田自身は甲子園への出場を断たれて悔しいのが本音だろうが、今は親友の浅野と、西応ナインを心から祝福していた。全員が、新田の言葉にどう答えていいのかわからず、一瞬沈黙が流れた。

新田はそんなナインを見回して、グラスをあげた。

「頑張ってきてくれ・・甲子園には俺も応援に行くからな!」

新田の言葉に、全員が声をそろえて「ハイ!」と答えた。新田はナインの表情に納得したようにうなづくと、グラスをあげた。再び全員がグラスを合わせた。

ひとみは、宴席がひと段落つくと、少し離れた所に座っている晴美のところへと移動する。晴美に飲み物をつぎに行ったようだ。ひとみは、晴美のグラスに飲み物をつぎながら、はるみに耳打ちする。

「やるじゃない、晴美。新田さんと、いつメール交換したのかな?」

晴美はふいをつかれて、顔が真っ赤になる。

「ちょ・・・ちょっと、ひとみぃ・・!」

狼狽している晴美の背中を、ひとみはぽんと叩きながら言った。

「がんばってね~。」

「あ・・・ひとみ・・その・・そんなんじゃないんだってばぁ!」

晴美は否定しているが、その様子を見れば誰が見ても晴美の気持はばれていた。新田自身が、どういう気持ちで晴美を見ているのかは、別であるが・・。

一方で、テーブルの端の方では、数人の選手が集まって、なにやら話をしている。その輪の中に新田もいた。新田も楽しそうに笑っている。

「あ、どうしたの?何か楽しいこと?」

ひとみが新田の後ろから声をかける。新田が、笑いながらひとみを見上げると、速水から携帯をもぎ取って、ひとみの前に差し出した。

携帯の画面には、顔を真っ赤にしている田島と、それにもたれかかって眠っている写真が映し出されていた。先ほどのバスの中で撮られた写真だ。

「涼風・・お前の寝顔、けっこうかわいいじゃないか。」

新田がひとみを冷やかす。無防備な寝顔を撮られていると知って、ひとみのほほが赤くなる。ひとみは、集まっている選手たちを見回すと、一瞬笑顔を見せた。しかし、次の瞬間、ひとみはひとりの選手の襟首を捕まえて言った。

「よくも、勝手に人の寝顔とったわね~!」

「あ~ごめん、許して!」

「だめ~!許さないんだから、もう!」

ひとみは、手近にいた速水を捕まえると、思い切りヘッドロックで締め上げた。

「あ~ごめん!ギブアップ~!」

速水が、手足をばたばたさせながら謝る。すると、遠くの席から、晴美が自分の携帯を振りながら言った。

「私、さっき浅野さんからその写真貰ったよ~!」

先ほどひやかされたからか、晴美が仕返しとばかりに大声で言った。

「あ、晴美~!その写真消してってば!・・それに、浅野さんまで写真撮ってたの~!」

ひとみがばたばたと、晴美の席にやってくる。女子マネージャがそこへ群がる。

「みせて~みせて!」

「あ~だめ!だめだったらぁ!」

ひとみが手を伸ばして、晴美の携帯を取り上げようとするが、晴美がそれを向いにいた武藤にパスする。

「いっただき~!」

武藤はがらにもなく、ふざけた口調で言いながら、ひとみに見せびらかすように、携帯をひらひらと振る。

「あ~ん!武藤さんまで~!」

ひとみは今度は武藤を追いかけ始める。


そんなほのぼのとした場面を見ながら、新田が浅野に言った。

「いいな、お前たちのチームは。これくらい明るければ、きっと甲子園でも勝てるさ。」

「新田・・・お前の分まで頑張ってくるからな。」

浅野が新田の肩をたたく。

「お前との決着は・・プロに持ち越しだな。また対戦できるのを楽しみにしてるぜ。」

新田は満足そうな笑みを浮かべると、浅野とがっちりと握手を交わした。


~つづく~