神宮球場は、その日は異様な盛り上がりを見せていた。カメラマン席も満杯。そして、テレビカメラもずらりと並んだ。ひとみのピッチングを洩れることなく捕まえようという構えだ。もちろん、相手チームである英星高校も、初出場がかかった試合。藤野もまた、左のアンダースローでの150キロを超えるピッチャーとして大いに注目を集めていた。

「さあ、西東京地区予選も、ついに大詰めとなってきました。どちらも、今大会を盛り上げた注目投手の対戦です。女性初の甲子園出場なるか、涼風選手。それとも、アンダースローから繰り出される150キロ台の速球を武器に、ここまで英星の快進撃を支えてきた藤野選手がそれを阻止して、英星高校を初の甲子園へ導くのか。いずれにしても注目のカードとなりました!」

テレビアナウンサーが少々興奮気味に実況している。


一方、応援席では、新田がそのしあいを見届けるため、西応応援団に混じって、試合を見つめていた。もちろん、その横では晴美がちゃっかりくっついている。

「私、新田さんとの決勝戦を見たかったのに・・残念です。」

「もし、俺が決勝にこれていたら、おまえどっちの応援をするつもりだったんだ?」

「それは・・・。」

晴美が口をつぐんだ。そうなったらなったで、晴美にとっては少し複雑な気持ちになっていたのだろう。

「ま、今日は存分に西応を応援できるんだからいいじゃないか。」

新田はひとつ大きな伸びをすると、またグランドに眼を向ける。


試合は、先攻が英星となった。ひとみがマウンドをならしながら、投球練習に入る。いつもどおり、小気味よい音が、受ける田島のミットから聞こえる。藤野はそれをじっとベンチから見守っている。

投球練習が終わり、田島がマウンドのひとみに駆け寄ってくる。

「大丈夫か?緊張してないか?」

田島はそうひとみに尋ねたが、田島自身が少し緊張しているようだ。ひとみが答える。

「うん。大丈夫だよ。それにしても、今までの球場より、すこしマウンドが高いみたいね。」

ひとみはすこし足元を気にしながら言った。

「気になるか?」

田島の問いに、ひとは首を振る。

「ううん。むしろ私にはこれくらいがちょうどいいみたい。アメリカでやってた時の感覚に近いから。」

「そっか・・それならいい。引き締めていこう。」

田島はそれだけ言うと、ひとみのグラブにボールを放り込むと、ホームへ向かって走り出した。

田島がゆっくりと腰を下ろすと、審判が大きく手をあげて試合開始を告げた。


~つづく~