二日後。ついにベスト4をかけた試合が始まろうとしていた。相手はテストマッチですでに対戦している浅川工業。両軍のベンチ裏には多くの応援団が集まっていた。気温はぐんぐん上がり、すでに30度にとどこうとしていた。

「あっついね~。」

田島と軽いキャッチボールで肩をならしていたひとみが言った。

「まだまだこんなもんじゃないぞ。甲子園までいけば、マウンドは40度近いらしいから・・。」

「40度・・・・死んじゃうかも。」

そういいながらも、明るい笑顔で答えを返すひとみ。その表情には余計な力みや入れ込みはかんじられない。



一方、西応応援団の中には、あの新田の姿もあった。約束どおり、試合を見届けに来たのだろう。その横に、また晴美がちゃっかり腰を下ろす。

「暑いですね。今日はつめたい麦茶たくさん持ってきましたからどうぞ。」

晴美は新田におおきな水筒を見せながら言った。

「気が利くのはいいが、なんで俺にくっつくんだお前・・・。」

新田が少々あきれたように言った。晴美はちょっとはにかみながら下を向く。新田はそんな晴美のそぶりを見ながら、ふっとため息を漏らした。

新田の通う城谷高校は男子校。こうやって女子生徒と話す機会などほとんどない。とはいえ、イケメンでスポーツマンの新田には、しつこい追っかけの他校の女子高生も少なくない。しかし、新田は野球一筋でそんな追っかけ女子高生を少々疎ましく思っていた。

最初のうちは、晴美に対しても同じ気持ちを持っていたが、何かと気を利かせてくれる晴美に、今までとは少しだけ見方が変わってきているのを新田自身も感じていた。だからといって、晴美とどうこうということまでは考えてはいなかった。

「ま、いいか・・・。」

新田が独り言のようにつぶやいた。

「え?」

その言葉に、晴美は少し不安そうな顔で新田の顔を見る。ひょっとして、嫌われたのかな・・・晴美は。そんな気持ちで不安に感じたようだ。

「いや・・・なんでもない。ありがとう。麦茶もらうよ・・・。」

新田は何か吹っ切れたような表情で答える。

「あ、・・・はい!」

とたんにうれしそうな笑顔で、晴美は新田に水筒の麦茶を注ぐ。

「あの・・・一つ聞いてもいいですか?」

晴美が新田に尋ねる。

「ん?なんだ?」

「新田さん、この暑い時期も冬のガクランを着たままですよね?何でですか?」

たしかに30度を越えようというこの時期に、新田はひとり黒いガクランを着たままだ。さすがに、ガクランの袖を折って腕まくりはしているが、白い服が多い中で一人で黒いガクランは目立つ。

「ああ・・・これか?ひとつは暑さに慣れるためかな。夏のマウンドはサウナ並だから。それと・・。」

そういいながら新田はガクランを脱ぐと、それを晴美に投げ渡した。

「うわ!」

晴美が驚いて声を上げた。

晴美が驚いたのも無理はない。ずしりとした重みが、晴美にかかってきたからだ。このガクランは普通のガクランではない。まるで、鉄アレイのような重さだ。

驚いている晴美をよそに、新田は平然と答える。

「鉛の板が縫いこんであるのさ。重たいだろ?」

「これって、もしかして・・・。」

晴美が信じられないというような面持ちで、新田の顔を覗き込む。

「そう。これを着ていることで筋力をつけようって訳さ。高校の入りたての頃から続けている。重みを感じなくなったら、またウエイトを縫いこんでここまで重くなった。俺にとって見れば、そのガクランは俺の野球の歴史みたいなもんだ。驚いたか?」

「は・・・はい・・。」

晴美は返す言葉がなかった。この人はなんという人なのか・・。ここまでして自分を最高の状態に持っていこうとしている・・・自分はとてつもない人に好意を寄せてしまったのだと、改めて感じずに入られなかった。

新田はちょうど晴美の膝にかかった自分のガクランをひょいと持ち上げると、再び袖を通した。

「ほら、試合始まるぞ。」

新田はそういいながら、グランドに目をやった。


~つづく~