初戦を快勝したひとみは、翌日学校の帰り道に田島と一緒に喫茶店で道草を食っていた。

ひとみは目の前に持ってこられた大きなパフェをおいしそうにほおばっている。一方の田島は、コーヒーにケーキを注文していた。この喫茶店のパフェは大きいことで有名で、ひとみと田島の間にパフェが置かれると、ひとみの顔が見えなくなるくらい大きい。

「ねえ、キミも食べる?」

ひとみが、大きなパフェの横からのぞくように田島に声をかける。田島はコーヒーをすすりながら、答えた。

「いいよ。涼風がたのんだんだろ・・。」

「でも、このパフェ大きいから食べきれないかも。一緒に食べるつもりで頼んだんだもの。食べよ。」

ひとみは15歳の高校生らしい笑顔で言った。本当にこうしていると普通の女子高生だ。

「じゃ・・・少しもらおうかな・・。」

田島も甘いものには目がないほうなので、遠慮しがちではあったがそう答えた。

「よかった。はい!」

ひとみが、スプーンですくったパフェを、すっと田島の方に差し出した。

「はい、あーんして!」

田島の顔が、みるみる真っ赤になる。ひとみはそんな田島の様子がおもしろくてたまらないらしい。さらにスプーンを差し出してもう一度言った。

「ほら、あーーん!」

「よせってば・・・自分で食べられるって・・・。」

田島は周りの視線を気にしながら言った。しかしひとみはそんなことはお構いなしだ。今度は立ち上がって、身を乗り出しながらスプーンを田島の顔の前に突き出す。

「ほらぁ。口開けて・・・。」

田島は仕方なく口をあけると、ひとみが差し出したスプーンのパフェを口に入れる。冷たい感触が、田島の口いっぱいに広がる。

「ね、おいしいでしょ?」

「・・・うん・・。」

田島はまだ周りの視線を気にしている。ひとみはそんな田島の顔を、楽しそうな笑顔で見つめる。

しばらく沈黙が続いたあと、ひとみはパフェをまた一口食べながら、田島に言った。

「ねえ、どうしてコールドなんてルールがあるのかなぁ・・。」

「え?」

「だって、最後まで試合をしなかったら、その先どうなるかわからないじゃない?10点差付いたからって、そこでやめちゃうのっておかしいと思わない?」

ひとみは本当に不思議そうに言った。田島が答える。

「でも・・・あんまり点差が開いちゃったら、相手がかわいそうじゃないかな・・。」

「そうかしら?相手だって10点取ってるんだから、負けてる方も10点取るかも知れないでしょ?途中でピッチャーが調子を崩すかもしれないし、9回が終わるまでは何が起こるかわからないんだから。なんか強制的にあきらめさせられてるようで、かえって可哀そうだと思うけどなぁ。」

「それはそうかもしれないけど・・・。ボクシングだってTKOってあるじゃないか。レフリーが完全に相手がダメージを受けて戦える状態じゃなくなったら試合を止める。あれと一緒だよ。」

「そうかなぁ・・・。」

ひとみは窓の外の景色を見ながら気のない返事をした。ひとみにしてみれば、最後まで全力で戦ってきちんと決着をつけたいようだ。そのあたりは、ひとみのいいところでもあるのだが。

「変なことで悩むなよ。今度の試合も勝たないといけないんだからさ・・。」

「うん・・・そうだね・・。」

ひとみはスプーンについたクリームをぺろりとひとなめすると、またそのスプーンでパフェを掬って田島に差し出す。

「はい、どうぞ。」

今度は田島も少し慣れたのか、素直に口をあける。ひとみがその口の中にスプーンを入れる。また、甘く冷たい感触が田島の口の中に広がった。

「次もがんばろうね。決勝でまた新田さんと早く投げたいな。」

ひとみはまた少女らしい笑顔を見せながら、新田との再戦を心待ちにしているようだった。


~つづく~