ひとみのピッチングはその後も快調そのものだった。

5回には毛利に初ヒットを打たれたものの、大西をセカンドゴロゲッツーに仕留めピンチをしのぐと、6回も3者凡退。

一方の新田も、1点を先制されてからは完全に新田本来のピッチングが戻り、その後はパーフェクトに抑えていた。二人の投手戦は息詰まるものとなっていた。どちらの応援団も、この緊迫した試合にいつしか応援するのも忘れ、息をのんで見つめていた。

7回。1番の加々美がショートへの内野安打で、城谷がノーアウトのランナーを出した。しかし、盗塁を狙った加々美が大きなリードをとったところで、田島が一塁へ牽制を送り加々美を見事に刺した。これには、マウンド上のひとみも拍手をして喜んだ。

「ふうん・・リードだけじゃなく、肩もいいな。あのキャッチャー、武藤を押し出しただけの実力を持っているってことか。」

新田がベンチからゆっくりとダッグアウトから出てきてつぶやく。

ひとみは2番バッターをセカンドゴロに打ち取り、これでツーアウト。そしてひとみは新田との今日3回目の対戦を迎えた。

「さて、今度はどんな球を見せてくれるのかな?」

新田は足場をならしながら、田島に声をかけた。田島は無言で新田の表情をのぞき見る。初回の打席同様の落ち着いた表情に、ゆとりのあるかまえ。新田は落ち着きを完全に取り戻しているように見えた。

『さて・・どうするか・・。』

田島は迷った挙句、審判にタイムを求め、マウンドのひとみに駆け寄った。

「なあに?」

ひとみが柔らかな表情で田島を見あげる。

「涼風・・あのさ・・少しストレートのスピード押さえて投げられるか?」

「うん。大丈夫だよ。でも、どうして?」

「この打席、新田さんは一発狙ってると思うんだ。新田さんの実力なら、涼風のストレートもタイミングが合えばミートできる。それならタイミングをはずして、ファールでカウントを稼いだ方がいい。」

「そっか。それでストレートのスピードを抑えて、少しタイミングを外そうってわけね。オッケー、やっぱりキミ、いいキャッチャーだよ。」

ひとみは田島のリードをほめながら、また口元に笑みを作る。田島は、その笑顔を見届けるとマスクをかぶりホームへと戻る。

「さて、何を相談したのかな?」

新田が田島の神経を揺さぶるように声をかける。田島は無言のまま答えない。

『さて、いくぞ涼風!』

田島のサインにひとみがうなづく。ひとみはアウトコースいっぱいにストレートを放つ。新田はそのボールに鋭くバットを振りぬいた。

キン!

ボールは弾丸ライナーで飛んだが、大きく右へそれファールになる。ボールはそのまま観客席前のネットを直撃した。ちょうど一番前で応援していた晴美の目の前だ。晴美は思わず首をすくめ、目をつぶる。

「きゃあ!」

晴美の声がグランドに響いた。すぐ近くにいた男子生徒が思わず晴美のリアクションにふきだした。晴美がきっと男子生徒を睨みつけると、もっていたメガホンで男子生徒の頭を叩く。

「球威が落ちているな。スタミナ切れか?」

新田がまた田島に揺さぶりをかける。もちろん田島は動じない。

『球威が落ちているんじゃないですよ、新田さん。』

田島は次のサインをひとみに送った。ひとみは、次の球を今度はインコースに投げる。新田のバットがそのボールをとらえる。

ギン!

先ほどより大きく鋭い音がバットから響く。はじき返された打球は、大きくレフト線へ上がった。舞い上がった打球はどんどんと伸びていく。

「入るな~!」

悲鳴のような声で、晴美が叫ぶ。

審判がラインをまたぐようにじっと打球の行方を見守る。やがて場外へと打球が消えると、審判は大きく両手をあげた。

「ファール!」

西応ベンチからため息が漏れる。もう少しで同点のホームランだ。新田も悔しそうに唇をかむ。

「タイミングがずれたか・・。」

悔しそうな新田の言葉。田島は完全に新田がこちらの術中にはまったことを感じた。

『よし、3球で決めるぞ、涼風!』

『了解!』

まるでテレパシーで更新しているかのような阿吽の呼吸。二人の息は完全に一つになろうとしていた。

ひとみは思い切りよく3球目を投げ込む。新田が踏み込んで打ちに行くが、先ほどとは伸びも切れもまったく別のボールがホームに向かっていた。

「な・・!」

新田は完全に振り遅れ、空を切った。ひとみのウイニングショットのスライダーが決まった。

「ストライク!バッターアウト!」

審判が大きく手を挙げた瞬間、新田は膝に手をやりがっくりとうなだれた。

『やられた・・・完全に俺の負けだ・・。』

新田は二人の新たなライバルの出現を肌で感じ取っていた。

~つづく~