メンバー交換が終わり、スコアーボードに先発メンバーが発表され始めた。ひとみたちのチームは1番速水から始まり、3番には浅野、4番には武藤が座った。注目のひとみと田島の打順は、田島が8番、ひとみがラストバッターだ。
「9番、ピッチャー涼風」の場内アナウンスが流れると、ひとみたちが陣取る1塁側のスタンドから大歓声が上がった。

一方の城谷の先発は、予想通り先発ピッチャーは新田、受けるキャッチャーは、新田とともに1年生でレギュラーを取った大西の不動のバッテリー。新田は3番に、大西は5番だった。そして、4番には二年生ながら主砲の毛利だった。毛利はファーストを守る。

メンバーが紹介されると、ひとみがゆっくりとマウンドに上がった。田島はあわただしくプロテクターを身に着けると、キャッチャーボックスに小走りに向かう。そして、ゆっくりと腰を下ろした。

ひとみはゆっくりとしたモーションで投球練習を始めた。全員がその投球練習に注目する。一瞬騒がしかったスタンドが静まり返る。決して恵まれた体格ではないひとみの腕が鞭のようにしなり、田島のミットめがけてボールが放たれる。伸びのあるボールが、球状全体に響き渡るような大きな音を響かせて、田島のミットに納まった。城谷の応援席からはざわめきが、そして、1塁側からは大歓声が上がる。

「へえ・・浅野の言ったとおり、いい玉を投げるな・・。」

新田が不敵な笑みを浮かべながら、ひとみのピッチングを見つめる。新田は、新たなライバルが現れたことをしっかりと感じ取っていた。このボールは確かに本物だ・・・新田はそう思っただけで、対決の時が無性に楽しみに思えてくる。新田は相手が強ければ強いほど燃えるタイプだ。ひとみの登場は新田自身にとってもいい刺激になっているようだ。

投球練習が終わると、田島が小走りにマウンドに向かう。ひとみは、何度もマウンドを確かめるように足場を鳴らしている。田島が口を開く。

「緊張してないか?」

田島は自分自身にも言い聞かせるような口調で言った。田島自身、初戦が城谷ということもあり、夕べもよく眠れずにいた。しかも相手は高校野球屈指の名投手新田だ。緊張するのも無理がないだろう。しかし、ひとみは顔を上げると、いつもどおりの笑顔を見せる。

「大丈夫だよ、相棒。」

ひとみはそう言いながら、田島の胸のあたりをグラブでポンと叩いた。

「キミも緊張してるんじゃない?大丈夫、私たちだったらいい試合できるよ。」

相変わらず前向きなひとみの言葉。ひとみには緊張とかプレッシャーという言葉は無縁のようだ。田島は大きく息を吐き、口の辺りをミットで隠しながら言った。

「多分浅野さんからは、新田さんに涼風のデーターを伝えてあると思う・・・だから、この間のテストの時には使わなかったボールも使わないといけないと思う。」

「そうだね。実践でどのくらい私のボールが通用するか試したいしね。でも、カーブは投げないよ。」

「わかってるよ・・・とっておきのボール・・だよね。」

ひとみは笑みを浮かべながら小さくうなづく。

「それじゃ・・・肩の力を抜いて、楽にいこう、涼風。」

「相棒でしょ?」

ひとみがまたグラブで田島をポンと叩く。田島はちょっと戸惑ったような表情を見せながら、改めて口を開く。

「・・そ・・そうだね。相棒。」

ひとみは満足そうに微笑むと、守備位置に戻るように田島を促す。田島はまた小走りでホーム方向に向かう。

「プレイボール!」

審判の片手が大きく上がった。

~つづく~