小野田のもとに、選手全員が集まってくる。小野田はそのひとりひとりの顔を確認すると、後ろに立っているマネージャに声をかけた。

「おい、次の練習試合はいつだ?」

マネージャーがあわてて手元にあったノートをめくる。指でなぞるように予定を確認すると答えた。

「はい、城谷です。再来週になります。」

それを聞いて、小野田の口元に不敵な笑みが浮かぶ。

「新田のいるところか・・・ちょうどいい。いいテストマッチになる。」

そう呟いて、小野田は全員に向かって言った。

「次の試合、涼風と田島が先発バッテリーでいく。武藤はサード、浅野はファーストに入れ。あとはいつものレギュラーでいく。以上だ!」

それだけ言うと、小野田は後ろを振り向いてマネージャーに言った。

「試合用のユニフォーム、あの二人の分大至急作るように依頼しろ。姉ちゃんの分は、なんとか既成のものもあるだろうが、あのデブの分は特注になりそうだがな・・・。」

小野田がマネージャの肩をぽんぽんと叩いて、その横をすり抜けるようにその場を後にしようとする。それを浅野が追った。

「監督!」

煙草を口にくわえたまま、小野田がゆっくりと振り向いた。

「何だ?不服でもあるか?」

「いえ・・・涼風の球は本物です。田島のフィールディングやリードも文句をつけようがありませんでした。あの二人は間違いなく戦力として使えます・・。」

「だったら何だ?」

小野田がゆっくりと浅野の方に向き直る。浅野が続ける。

「次の練習試合の相手は、城谷です。あの新田が、すんなりこの試合を受けてくれるかどうかわかりません。それに、そのあとのことも・・・・。」

浅野はそこまで言いかけて、目線を落とす。しかし、小野田はそれですべてを理解したように、浅野の肩を叩く。

「心配するな。向こうの監督には俺から話しておく。もし、それでも心配なら、新田にはお前から話をしておいてくれ・・中学時代からのよきライバルなんだろ?グランドを離れれは、親友のお前たちだ。ちゃんと話せば新田もわかってくれるだろう。そのあとのことは、その試合の結果次第だ。今から心配しても始まらん。」

浅野はじっとうつむいたまま考え込んでいたが、やがてゆっくりと顔あげると、静かにうなづいて見せた。小野田は再び朝野の肩をぽんと叩いた。そしてゆっくりと浅野に背を向けると、ゆっくりとグランドを後にした。

小野田がグランドを去るのを見届けると、浅野はゆっくりグランドの方を振り返った。ひとみと、田島がほかの選手に囲まれている。武藤も今は笑顔で田島の肩を叩いて祝福していた。ひとみのほうも、うれしそうにチームメイトと談笑している。チームメイトが二人の実力を認めた何よりの証拠だった。しかし朝野の気持は複雑だった。次の試合は昨年夏、東京の予選の決勝で戦った城谷。そしてそこには都内屈指の好投手で朝野のライバルの新田貞義がいる。一筋縄ではいかない相手だ。その試合を無事にこなしたとしても、ひとみにはまだ越えなければならない難関が待ち構えていることを、浅野は理解していた。ひとみの力は、高校球界に一石を投じる大論争を巻き起こすであろうことを、浅野は知っていた。そのハードルを越えなければ、ひとみにその先がないことも・・・。


~つづく~