1時限目が終わった休み時間、晴美はひとみの席に近づくと、手を上げながら声をかけた。

「は~い、ひとみちゃ~ん。」

他の生徒よりひときわ高い声でひとみに声をかけると、晴美はなれなれしく、瞳の肩に手を回しながら言った。

「私、朝霧晴美。よろしくね。ひとみちゃん、ロサンゼルスだって?ずっと、そこで暮らしてたの?」

最近の女子高生らしい、軽くて明るい乗りで晴美はしゃべり始めた。ひとみはそんな晴美の態度に、嫌な顔もせず、同じような明るい声で答える。

「そう。おとうさんがずっと赴任してたからね。晴美ちゃんでいいのかな?こちらこそよろしくね。」

先ほどの田島同様、ひとみは晴美に右手を差し出した。晴美はうれしそうにひとみと握手を交わした。

「ひとみちゃん、アメリカで生まれたってことは、日本とアメリカの両方の国籍を持ってるの?」

「そう。まあ、そのうちどちらかの国籍を選ばなきゃならないけどね。」

「へ~~。なんか、あこがれるなぁ、そういうの。向こうで育ったなら、英語もぺらぺらだし・・いいなぁ。・・・・・あ、そうだ、私英語苦手だから、今度テストのときいろいろ教えてね!」

「いいよ、任せて。」

「わ~やった~~~。」


何のことはない、普通の女子高生同士の会話。アメリカでずっと育ってきた割には、ひとみは日本の雰囲気に溶け込んでいるように見えた。晴美はそんなひとみとのやり取りで、すっかり昔からの友達気分になっていた。

「あ、ひとみちゃん、クラブはどこに入るの?よかったら、私と一緒に美術部に入らない?」

晴美の誘いに、ひとみは静かに首を振りながら答えた。

「わたし、入るとこ決まってるから。」

「え、そうなんだ!何部にはいるの、教えて!」

晴美は、ひとみの前に回りこむと、ひとみの顔を覗き込みながら聞いた。

「野球部。ここの野球部強いって聞いたから、この学校選んだんだ。」

「野球部?マネージャーやるの?」

晴美は不思議そうな顔をする。しかし、ひとみは笑みを浮かべながら首を振った。

「やだなぁ。選手よ。私、向こうで中学校までずっとピッチャーやってたのよ。だから、高校でも野球を続けるって決めてたの。」

「え!選手になるつもりなの!?」

晴美は驚いて立ち上がりながら言った。しかし瞳の目は真剣だった。

「本当よ。女の子だって、実力があれば選手になってもかまわないでしょ?」

ひとみは、晴美がこれほど驚くのが不思議だった。一方の晴美は、あいた口がふさがらない。きっと、ひとみが入部を希望しても、野球部の男子がどんな風に思うか分かっていたからだ。女子高生が野球部の選手になるなど考えられなかった。
そんな晴美をよそに、ひとみは明るい笑顔を見せながら言った。

「今日の放課後にでも、部室によって入部届けを出そうと思ってるんだ。」

ひとみは、高校で野球をすることを本当に楽しみにしているようだった。これから起こるであろう、数々の試練がまっているとも知らずに・・。


~つづく~