4月のある日、東京都内の私立西応高校の1年生教室。

朝のホームルーム前の時間帯、登校してきたばかりの新入生たちが、楽しそうに談笑している。ごく普通の、ありふれた朝の光景だ。入学から2週間余り、そろそろ新生活に慣れて、新しい友人もできて、入学したてのころの緊張感からも大分開放されているのだろう、女子生徒たちの黄色い声が特に教室に響いている。

そのとき、教室の前の扉が静かに開いた。そして、大柄な男性教師がそこから入ってきた。

「こらこら~。みんな席に着け~。」

男性教師が、手を叩きながら大きな声で席に着くよう指示する。
生徒たちは、ばたばたとあわてて席に着いた。

と、その男性教師の後ろについて、一人の少女が制服姿で教室に入ってきた。肩には通学用のバックを下げ、制服はこの学校の制服だ。グレーのブレザーにチェックのスカート。髪は背中にかかるくらいまで伸ばして、ブラウンがかった色に髪を染めている。どちらかというと、健康的に日焼けした顔。大きな瞳。
いかにも活発そうな女の子だ。

「え~。今日からこのクラスに入った新入生だ。涼風ひとみくんだ。彼女は、アメリカ生まれで中学まではアメリカで生活していて、お父さんの仕事の関係で帰国してきた。引越しなどの都合で、入学式には間に合わなかったが、今日から晴れて同じクラスメートになることになった。みんな仲良くするように。」

簡単に男性教師が、新入生を紹介する。そして、男性教師に促されて、少女は大きな声で自己紹介をはじめた。

「涼風ひとみです!先週、ロスアンゼルスから日本に戻ってきました。・・・と、言っても日本は私は初めてで、分からないことだらけだけど、いろいろ教えて。よろしく!」

少女はぺこりと頭を下げた。ずっとアメリカで過ごしていた割には、英語なまりのような日本語ではなく、しっかりとした口調での自己紹介だった。

「さて、席は・・・・田島の隣が空いてるな。それじゃ、そこにすわってくれ。」

男性教師は、一番後ろに座っている大柄で、どちらかといえば太目の男性生徒のほうを指を指した。

男性教師に言われて、ひとみは田島と言われた男子生徒の方に歩いていく。やがて、ひとみは田島の前で歩を止めると、田島のほうを見下ろしながら、明るい声で言った。

「ひとみよ。よろしく。」

ひとみは、さっと右手を差し出し握手を求めた。田島のほうは、突然握手を求められて、とまどっているようだった。しかし、ひとみにしてみれば、ごく普通の行動だった。初めてのクラスメートに対して、握手をすることは別に彼女にとっては自然なことだったのだ。

田島はちょっと口ごもりながら、言った。

「あ・・の・・。田島靖です・・・。よ・・・よろしく・・。」

田島がおずおずと手を差し出す。ひとみは差し出されたその手を、しっかりと握り返しながら言った。

「こちらこそ。」

ぎゅっと握り締めたその手は、女の子とは思えないような握力を田島に感じさせた。スポーツでもしていたのだろうか?田島は、ひとみと握手を交わしたその手を見つめながら思った。アメリカの女性はみんなこんな感じなのかな・・・田島は改めて隣の席のひとみに目をやった。よく見れば、かわいらしい普通の女子高生に見える。日焼けした小麦色の肌・・きちんとお化粧でもすれば、きっと美人なんだろうな・・・田島はぼーっとして、ひとみのほうを見つめていた。

と、その視線に気付いたのか、ひとみが田島のほうに目をやる。

「ん?なあに?」

屈託ない笑顔で、ひとみは田島に言葉をかけた。田島はあわてて目をそらす。

「あ・・・いや・・・なんでも・・ないよ・・。」

田島はちょっと顔を赤らめながら答えた。ひとみはちょっと不思議そうな顔をする。

そんな二人の様子を、少し前の席から見守っている生徒が居た。このクラスでもとりわけ明るく、ちょっとおせっかいやきの朝霧晴美だった。

『へえ・・・面白い娘がきたわねぇ。あとで声かけてみようっと!』

晴美は、ちょっと変わった新入生に、これから楽しそうなことが置きそうな予感で、ちょっとわくわくした気持ちになっていた。


~つづく~