その日の夜のことだ。由加利はカルバドスのアルバイトで、いつもどおりカウンターの中で仕事をしていた。もちろん、早瀬は開店前からカルバドスに来て、カウンターに座っている。二人にしてみれば、誕生日のデートの続きを楽しんでいるようだった。

チリンとベルが鳴った。

「やあ、やっぱり早瀬も来てたんだ。」

入ってきたのは矢島だった。手には大きな紙の手提げ袋をさげている。矢島は指定席に腰掛けると、持っていた荷物を由加利に差し出した。

「誕生日おめでとう。ケーキ買ってきたよ。」

「わ、うれしい~!ありがとう。早速、ケーキ切るね。」

由加利は本当にうれしそうにケーキを受け取ると、ケーキを置く皿を戸棚から出してくる。

早瀬は、由加利がケーキに夢中になっている間に、隣の矢島をひじでつつきながら、小声で矢島に耳打ちした。

「お前との約束・・・ちゃんと守ったからな・・。」

「え、そうなの?どうりでこのところ由加利が機嫌よさそうだと思ったよ。由加利喜んだだろ?」

「ん・・・まあ・・な・・。」

早瀬はちょっと照れくさそうに、鼻の頭を書きながら横を向いた。矢島が冷やかすように早瀬の背中をぽんぽんと叩く。

「はーい、ケーキ切ったわよ。マスターの分もありますからね~。」

由加利は本当に気分がよさそうだった。もちろん、矢島には由加利がこんなに機嫌が良くなる前に、早瀬とひともんちゃくあったことなど知る由もなかったが。

「そういえば、そろそろイブも近いな・・・。矢島、お前どうするつもりだ?」

「どうするって・・・京子ちゃんのこと?それなら、考えてるよ。一緒にディズニーシーへ行くことに決めたよ。」

早瀬と由加利が顔を見合わせる。やっぱり・・と、早瀬も由加利も思っていた。矢島はやはりまひるとの思い出をたどっているのだ。

「おい、矢島。おまえ、ちゃんと意識してるのか?お前の選んだデートの場所は・・・。」

「まひるとのデートの場所と同じだ・・・・って言いたいんでしょ?もちろん分かってるよ。」

矢島はケーキを口にほおばりながらあっけらかんと答えた。

「どうするつもりだ?お前はやっぱりまだ・・・。」

「心配しないでよ。早瀬や由加利が心配しているようなことはないから。僕は僕の考えがあってたどってるんだよ、同じ道を。もう、自分の中ではある程度気持ちは整理できているつもりだけど、でも、やっぱり確かめたいんだ。京子ちゃんとはどんな形でも、これからずっといい関係で居たいと思ってるし、そのために自分がどうすればいいかを、もう一度冷静な目で自分を見つめてみたいんだ。」

矢島はその心の奥にすでに決めている何かを持っているようだった。しかし、それが難であるのかは早瀬も由加利も推し量ることはできなかった。しかし、不安があるものの、ここは矢島のその考えを信じてみようと思っていた。

「もし・・・本当にちゃんとした考えがまとまったら、きちんと話すよ。二人ともそのときは証人になってくれるかな?」

矢島は笑みを浮かべながら二人の顔を見ながら言った。二人はただだまって頷くしかなかった。


=つづく=