矢島は無我夢中で校門を走りぬけ、国道沿いを走り続けた。矢島の頭の中は真っ白だった。京子の身にもしものことがあったら・・・。そう考えると、一分一秒も惜しんで走り続けた。
そのとき、矢島の横を黒いバイクが走り抜けた。そのときバイクに乗っていたライダーが、ちらりと矢島のほうを振り返ると、矢島のすぐ先でバイクを止めて、ヘルメットを取った。

「矢島!どうした?」

バイクに乗っていたのは葵だった。矢島は葵の顔を見ると、幾分ほっとした顔をしたが、すぐに息を切らせながら、葵に近づきながら言った。

「葵・・すまん、乗せてくれないか?京子ちゃんが、事故で病院に運ばれたらしいんだ・・。」

「京子ちゃんって、いつかのあの彼女か?分かった乗れ!」

葵はヘルメットを矢島に投げ渡すと、自分もバイクにまたがった。

「しっかりつかまってろ!」

葵はエンジンをふかすと、矢のような速さで走り出した。





葵のバイクは、タイヤを鳴らしながら病院の入り口に横付けされた。矢島があわただしくヘルメットを取ると、それを葵に手渡しながら言った。

「ありがとう、助かったよ。」

「礼はいいから、早く行け!」

葵は矢島の背中をぽんと押した。矢島は葵にもう一度頭を下げると、病院の中に駆け込んだ。葵は心配そうな面持ちで矢島の背中を見送った。葵の記憶の中にも、あの日の出来事が鮮明に蘇っていた。一度ならず二度まで・・・いや、そんなことはない。葵は自分に言い聞かせた。


一方の矢島は、ナースステーションで京子の居場所を聞くと、教えられた場所へと向かっていた。果たして彼女は大丈夫だろうか・・・。矢島の脳裏には悪いことばかりが浮かぶ。

廊下の突き当りを右に曲がる。そのとき、矢島の目に飛び込んできたもの・・それは、右腕をギブスで固め、三角巾でつった京子の姿だった。走ってきた矢島と京子の目が合う・

「先輩・・・。」

矢島はほっとしたと同時に、一気に体の力が抜けた。間のめりに体を曲げ、ひざの辺りを押さえながら方で息をしている。その矢島のそばに、申し訳なさそうに京子が近づく。

「すいません・・心配させてしまって・・・。自転車に乗っていて、曲がり角から急に車が出てきて、よけられずに・・・・。腕、折っちゃいました。ドジですね、私・・。」

矢島はまだ顔を上げることができず、大きく息を吸いながら呼吸を整えている。京子がまた矢島に近づいて、矢島の顔を覗き込むように言った。

「大丈夫ですか・・・本当にすいません・・・。」

矢島の肩に京子の手が触れた。その瞬間、矢島はその京子の手を取り、自分に京子を引き寄せた。

「・・あ・・・」

京子がそう声を上げた時には、もう京子は矢島に抱きすくめられていた。暖かな矢島の体温が、京子に伝わる。京子は自分の心臓が止まるのではないかと思うくらい、動悸が早くなるのを感じた。

「ばかやろ・・・心配させて・・・。でも、ほんとに良かった・・・無事で・・。」

矢島は京子を抱きしめている手に思わず力が入る。京子は自分の事故の知らせを受けて、ここまで心配してくれている矢島の心が本当にうれしかった。京子は目を閉じて、矢島に抱きしめられたまま甘えるように矢島の胸に、自分の顔を埋める。

「すいません・・。」

京子はやっと小さな声で、答えた。矢島が首を振る。

「いいよ・・・もう。無事だったんだから・・・。また・・怪我が治ったら、二人でどこかに行こう。」

「はい・・。」

京子は優しい矢島の言葉に、思わず涙を流した。そしてその涙を隠すように、また矢島の腕の中でその胸に顔を埋めた。

=つづく=