「由加利ちゃんと早瀬さんも一緒にテイスティングしませんか?お酒の勉強にもなりますし。」
そう言いながら、マスターの清水はテイスティンググラスをずらりとカウンターに並べた。由加利も早瀬もその清水の様子をじっと見詰めながら、不思議そうな顔をしている。
「では、まずこれから行きましょう。」
清水は一本のスコッチを取ると、少しずつグラスに注ぐ。3つのグラスに注ぎ終わると、それを3人の前に並べた。
「軽くグラスを何回か回して、まず香りを見てください。それから一口口の中に含んで味と香り、とりわけ喉を通った後の余韻を感じてください。」
3人は言われるがまま、グラスを回し香りをかいだ後、それを口に含んだ。やや癖のある香りと、すこしとろりとした舌触り、飲み込んだ後食道の方から戻ってくるような余韻をそれぞれが感じた。そしてころあいを見計らって、清水が次のボトルに手を伸ばす。
「では、一度水を飲んで口を新しくしてください。今度はこちらを試しましょう。」
清水は同じように3つのグラスにスコッチを注ぐと、3人の前にグラスを差し出す。3人は同じようにグラスを回し、その香りを見る。と、矢島が口を開いた。
「あれ?さっきのよりも、甘いような香りが・・。」
矢島がグラスに口をつける。するとまた、その違いに気が付いて言葉を出した。
「なんて表現したらいいんだろう・・・さっきのより芳醇な甘みと香り・・余韻も全然違う・・。」
「ほんとだ・・私はさっきのよりこっちのほうが好き。」
由加利も相槌をうつ。
「さっきのお酒と、今のお酒・・別のお酒ですよね?ラベルも違うし・・。」
矢島の問いかけに、清水は優しい笑みを浮かべながら首を振った。
「いいえ。同じグレンリベットですよ。熟成の年数もまったく同じものです。でも、違いがお分かりでしょう?」
「え?熟成年数も同じなんですか?俺、熟成年数の違いかと思ってたけど・・・。」
「もちろん、熟成年数でも味は大きく変わりますが、ここで変わったのは熟成の場所が違うんです。最初はオフィシャルのグレンリベットですが、後に飲んでいただいたのはボトラーズブランドというもので、瓶詰めの会社がグレンリベットを樽で買い付け、自社で熟成したものを瓶詰めしたものです。蒸留は同じところでしたのに、これだけ味が違うのは、熟成した場所の環境の違い・・・たとえば、温度や湿度などの微妙な違いで、まったく違った味に変化するんです。スコッチは生き物ですから。」
「そんなに微妙なものなんですね。そう考えると、よく味わって飲まないともったいない気がします。」
矢島が感心しながら言った。
清水は満足したようにうなずくと、今度は別のボトルを取る。
「では、今度の違いを当てていただけますか?」
そう言ってまたグラスに注いだスコッチを3人の前に差し出す。3人はそれぞれに酒の香りと味を確かめるように飲んだ。そしてまた、清水はころあいを見て次のボトルに手を伸ばした。それも同じように3人に差し出す。そして、一口飲んだ後、やはり最初に声を出したのは矢島だった。
「・・甘い・・口当たりが全然違う・・・。」
「これも、ボトラーズブランドですか?」
由加利の問いに、また清水が顔を振る。
「いいえ、どちらもオフィシャルブランドですよ。今度の違いは樽です。最初に飲んでいただいたのは、普通のファインオークを使ったものですが、後に飲んでいただいたのはシェリー酒を作った空き樽を使ったものです。ですから、樽に残ったシェリーの香りや味がお酒に移って独特の芳香や舌触りを生んでいるんです。」
「樽の差・・ですか・・。」
何かかみ締めるように、矢島がつぶやいた。なんとなく清水が言いたいことが、おぼろげながら見えてきた気がしていた。その矢島の顔を見ながら、清水がゆっくりと話し始めた。
=つづく=
そう言いながら、マスターの清水はテイスティンググラスをずらりとカウンターに並べた。由加利も早瀬もその清水の様子をじっと見詰めながら、不思議そうな顔をしている。
「では、まずこれから行きましょう。」
清水は一本のスコッチを取ると、少しずつグラスに注ぐ。3つのグラスに注ぎ終わると、それを3人の前に並べた。
「軽くグラスを何回か回して、まず香りを見てください。それから一口口の中に含んで味と香り、とりわけ喉を通った後の余韻を感じてください。」
3人は言われるがまま、グラスを回し香りをかいだ後、それを口に含んだ。やや癖のある香りと、すこしとろりとした舌触り、飲み込んだ後食道の方から戻ってくるような余韻をそれぞれが感じた。そしてころあいを見計らって、清水が次のボトルに手を伸ばす。
「では、一度水を飲んで口を新しくしてください。今度はこちらを試しましょう。」
清水は同じように3つのグラスにスコッチを注ぐと、3人の前にグラスを差し出す。3人は同じようにグラスを回し、その香りを見る。と、矢島が口を開いた。
「あれ?さっきのよりも、甘いような香りが・・。」
矢島がグラスに口をつける。するとまた、その違いに気が付いて言葉を出した。
「なんて表現したらいいんだろう・・・さっきのより芳醇な甘みと香り・・余韻も全然違う・・。」
「ほんとだ・・私はさっきのよりこっちのほうが好き。」
由加利も相槌をうつ。
「さっきのお酒と、今のお酒・・別のお酒ですよね?ラベルも違うし・・。」
矢島の問いかけに、清水は優しい笑みを浮かべながら首を振った。
「いいえ。同じグレンリベットですよ。熟成の年数もまったく同じものです。でも、違いがお分かりでしょう?」
「え?熟成年数も同じなんですか?俺、熟成年数の違いかと思ってたけど・・・。」
「もちろん、熟成年数でも味は大きく変わりますが、ここで変わったのは熟成の場所が違うんです。最初はオフィシャルのグレンリベットですが、後に飲んでいただいたのはボトラーズブランドというもので、瓶詰めの会社がグレンリベットを樽で買い付け、自社で熟成したものを瓶詰めしたものです。蒸留は同じところでしたのに、これだけ味が違うのは、熟成した場所の環境の違い・・・たとえば、温度や湿度などの微妙な違いで、まったく違った味に変化するんです。スコッチは生き物ですから。」
「そんなに微妙なものなんですね。そう考えると、よく味わって飲まないともったいない気がします。」
矢島が感心しながら言った。
清水は満足したようにうなずくと、今度は別のボトルを取る。
「では、今度の違いを当てていただけますか?」
そう言ってまたグラスに注いだスコッチを3人の前に差し出す。3人はそれぞれに酒の香りと味を確かめるように飲んだ。そしてまた、清水はころあいを見て次のボトルに手を伸ばした。それも同じように3人に差し出す。そして、一口飲んだ後、やはり最初に声を出したのは矢島だった。
「・・甘い・・口当たりが全然違う・・・。」
「これも、ボトラーズブランドですか?」
由加利の問いに、また清水が顔を振る。
「いいえ、どちらもオフィシャルブランドですよ。今度の違いは樽です。最初に飲んでいただいたのは、普通のファインオークを使ったものですが、後に飲んでいただいたのはシェリー酒を作った空き樽を使ったものです。ですから、樽に残ったシェリーの香りや味がお酒に移って独特の芳香や舌触りを生んでいるんです。」
「樽の差・・ですか・・。」
何かかみ締めるように、矢島がつぶやいた。なんとなく清水が言いたいことが、おぼろげながら見えてきた気がしていた。その矢島の顔を見ながら、清水がゆっくりと話し始めた。
=つづく=