翌日、京子はチケットをくれた同級生にチケットを返し、自分には別に好きな人がいると伝えた。そして、深々と頭を下げながら言った。

「本当にごめんなさい。・・・でも、デートに誘ってくれたのはうれしかったのは本当だから・・。ごめんなさい・・。」

京子は相手の同級生に本当にすまないと思っていた。きっと傷ついているに違いない・・・そう思っていた。しかし、同級生の男子はふっとため息をついたものの、明るく答えた。

「・・・そっか。そうだよね・・。青山さんだったら、好きな人の一人くらいいるよね。こっちこそごめんね。何も知らなかったから。」

京子はその答えを聞いて、顔を上げた。相手の同級生は、残念そうな顔をしていたものの、それほどショックを受けている様子もなく、やさしく笑っている。

「ほんと、ごめん。気をつかわせちゃったね。」

同級生はそれだけ言うと、京子に背を向けて歩き出した。その後姿に、暗い影は見られない。京子は胸を押さえて、ほっとため息をついた。よかった・・・由加利に言われたとおり、自分の正直な気持ちを伝えてよかったと思っていた。時には言いにくいこともきちんと話すことも、相手に対する思いやりなのかもしれない・・・そう思った。

京子はその足で、部室へと向かった。まだ、時期は早いがそろそろ秋の文化祭に向けて、作品を書かなければならなかったからだ。京子は書くことは大好きだが、製作スピードはあまり速くはない。その分早めに準備をしておきたかった。

部室のドアを開ける。
中央に大きなテーブルが置かれ、その上に原稿やら、会報やら、湯飲みやらが雑然と置かれている。ちょうど、そのテーブルに向かって、矢島が原稿を見ながらなにやら考えている。

「あ、先輩・・いらしてたんですか。」

京子に声をかけられ、初めて矢島は京子が入ってきたのに気がついたように顔を上げた。

「あ、京子ちゃんか。ちょっと、次の会報の編集をしなくちゃならなくて・・・割付とか考えてたところなんだ。」

京子が矢島の隣の席に腰をかけて、原稿を覗き込んだ。

「みんな好き勝手に書いてるから、ページの割付がなかなか合わなくてさ。あと2ページくらい、なにか入るとちょうどいいんだけど・・・。」

「あの・・・よかったら私、書きましょうか?詩やエッセイくらいなら、2ページくらいで何とかなりますよ。」

「ホント?助かるよ。今週中には編集済ませて、印刷かけたいんだけど、大丈夫かな?」

「はい、なんとかします。」

京子は明るい笑顔で答えた。
本当のところは、期日までにできるかどうか不安だったが、矢島が困っているのを見て、自分が何かできることがうれしかった。やっぱり、好きな人のために何かすることが、こんなに楽しいと思える自分に京子は改めて気がついた。そして、何よりも矢島にほんの少しでもいいから、自分を好きになってほしかった。京子は先ほどまでの重苦しい空気から、一気に解放された気分だった。

=つづく=