夏休みが開けて、始業式のその日。
まひるはいつもどおり由加利と一緒に教室に入ってきた。
矢島はすでに席についていて、早瀬と何か話していた。まひると由加利はいつもどおりの明るさで二人に近づいてきた。
「おっはよ~」
由加利がひときわ甲高い声で二人の肩をぽんとたたく。二人とも「おはよう」と返した。
「おはよう、早瀬君、矢島君」
「おう!」
早瀬が手を挙げて、まひるとハイタッチした。
「おはよ、まひる。」
「矢島君、おはよ!」
まひるは矢島ともハイタッチをした。
なんのことはない、普通の朝の挨拶だが、しかし、早瀬と由加利はその変化をすぐに気がついた。
由加利が早瀬の肩の辺りをひっぱって、ひそひそ声で言った。
「ねえ、早瀬君・・・聞き間違いじゃないと思うけど、矢島君、いま『まひる』って言ったよね?」
「ああ・・・確かに聞いた・・・。」
早瀬もぽかんとした顔で答えた。
早瀬も由加利も、夏休み中に二人に何かがあったらしいということはすぐに想像がついた。
今度は早瀬が矢島の肩を引っ張って、小声で聞いた。
「おい・・・おまえら、夏休み中になんかあったのか?」
「え?何で?」
矢島は訳が分からないようだ。
「矢島・・・ちょっと携帯見せろ!」
「え?」
矢島が何がなんだか分からないうちに、早瀬は矢島のポケットをまさぐると、矢島の携帯を取り出した。
「なにしてんの?」
早瀬は矢島の携帯のアドレス張を開く。
そこには早瀬と由加利のアドレスにならんでまひるのアドレスも載っている。そこには「早瀬」「加納さん」と書かれていたが、もうひとつのアドレスには「まひる」と書かれていた。そう、矢島は今まで「沢野さん」と登録していたまひるのアドレスを、「まひる」に直していたのだ。
早瀬と由加利は思わず顔を見合わせる。
「おい!何があったんだ?正直に吐け!」
早瀬が乱暴に矢島の首を絞める。
「おい・・・早瀬!く・・くるしい・・」
「やめなさいよ、何してんの早瀬くん!」
まひるがあわてて止めに入る。
「だって、矢島君おかしいもん。まひると夏休み中になんかあったんでしょ?まひるもちゃんと教えなさいよ。」
由加利がちょっとふくれっつらで、まひるに言った。
しかし、まひるはちょっと小首をかしげながら、何事もなかったように答える。
「え~。別に何もないよ。先週の日曜日に二人でハイキングに行ったくらいかなぁ。」
「で、そこで何があったのよ。」
由加利が迫るようにまひるに詰め寄る。
「何もないわよ。普通にハイキングして、一緒に頂上でお弁当食べて・・・それだけだよ。矢島君、動物だけじゃなくて、いろんなこと知ってるからガイドさんと一緒みたいで、勉強になっちゃった。たのしかったよぉ。」
まひるは無邪気に答える。由加利がため息をつく。
「ま、いいでしょ。とりあえず、悪いほうには行ってないみたいだから・・・。」
「そうだな、ま、いいか・・。」
早瀬が相槌をうつ。
今度は矢島とまひるが顔を見合わせる。
「ま、がんばれや、おふたりさん!」
早瀬は二人の方をぽんとたたいて、自分の席に戻っていった。
早瀬は思っていた。二人の関係を急に近づけたものは何か分からないが、とにかく矢島がまひるを本当の友達・・いや、それ以上の感情を持って接してきているのは十分わかっていた。それが何かはともかく、とりあえず矢島がいい方向に向かっていることは確かだった。それならそれでいい。まひるの力が矢島を変えてきている。でも、自分はどうだ・・・。動物園には無理やり連れて行ったが、それ以外矢島の力に何かできているのか?本当は自分が矢島に何かしてやらなければならないのに、まひるに頼ってばかりでいいのか?自分にできることはもっとあるはずだ。
早瀬は矢島に何がしてやれるのか、必死に考えていた。
=つづく=
まひるはいつもどおり由加利と一緒に教室に入ってきた。
矢島はすでに席についていて、早瀬と何か話していた。まひると由加利はいつもどおりの明るさで二人に近づいてきた。
「おっはよ~」
由加利がひときわ甲高い声で二人の肩をぽんとたたく。二人とも「おはよう」と返した。
「おはよう、早瀬君、矢島君」
「おう!」
早瀬が手を挙げて、まひるとハイタッチした。
「おはよ、まひる。」
「矢島君、おはよ!」
まひるは矢島ともハイタッチをした。
なんのことはない、普通の朝の挨拶だが、しかし、早瀬と由加利はその変化をすぐに気がついた。
由加利が早瀬の肩の辺りをひっぱって、ひそひそ声で言った。
「ねえ、早瀬君・・・聞き間違いじゃないと思うけど、矢島君、いま『まひる』って言ったよね?」
「ああ・・・確かに聞いた・・・。」
早瀬もぽかんとした顔で答えた。
早瀬も由加利も、夏休み中に二人に何かがあったらしいということはすぐに想像がついた。
今度は早瀬が矢島の肩を引っ張って、小声で聞いた。
「おい・・・おまえら、夏休み中になんかあったのか?」
「え?何で?」
矢島は訳が分からないようだ。
「矢島・・・ちょっと携帯見せろ!」
「え?」
矢島が何がなんだか分からないうちに、早瀬は矢島のポケットをまさぐると、矢島の携帯を取り出した。
「なにしてんの?」
早瀬は矢島の携帯のアドレス張を開く。
そこには早瀬と由加利のアドレスにならんでまひるのアドレスも載っている。そこには「早瀬」「加納さん」と書かれていたが、もうひとつのアドレスには「まひる」と書かれていた。そう、矢島は今まで「沢野さん」と登録していたまひるのアドレスを、「まひる」に直していたのだ。
早瀬と由加利は思わず顔を見合わせる。
「おい!何があったんだ?正直に吐け!」
早瀬が乱暴に矢島の首を絞める。
「おい・・・早瀬!く・・くるしい・・」
「やめなさいよ、何してんの早瀬くん!」
まひるがあわてて止めに入る。
「だって、矢島君おかしいもん。まひると夏休み中になんかあったんでしょ?まひるもちゃんと教えなさいよ。」
由加利がちょっとふくれっつらで、まひるに言った。
しかし、まひるはちょっと小首をかしげながら、何事もなかったように答える。
「え~。別に何もないよ。先週の日曜日に二人でハイキングに行ったくらいかなぁ。」
「で、そこで何があったのよ。」
由加利が迫るようにまひるに詰め寄る。
「何もないわよ。普通にハイキングして、一緒に頂上でお弁当食べて・・・それだけだよ。矢島君、動物だけじゃなくて、いろんなこと知ってるからガイドさんと一緒みたいで、勉強になっちゃった。たのしかったよぉ。」
まひるは無邪気に答える。由加利がため息をつく。
「ま、いいでしょ。とりあえず、悪いほうには行ってないみたいだから・・・。」
「そうだな、ま、いいか・・。」
早瀬が相槌をうつ。
今度は矢島とまひるが顔を見合わせる。
「ま、がんばれや、おふたりさん!」
早瀬は二人の方をぽんとたたいて、自分の席に戻っていった。
早瀬は思っていた。二人の関係を急に近づけたものは何か分からないが、とにかく矢島がまひるを本当の友達・・いや、それ以上の感情を持って接してきているのは十分わかっていた。それが何かはともかく、とりあえず矢島がいい方向に向かっていることは確かだった。それならそれでいい。まひるの力が矢島を変えてきている。でも、自分はどうだ・・・。動物園には無理やり連れて行ったが、それ以外矢島の力に何かできているのか?本当は自分が矢島に何かしてやらなければならないのに、まひるに頼ってばかりでいいのか?自分にできることはもっとあるはずだ。
早瀬は矢島に何がしてやれるのか、必死に考えていた。
=つづく=