
予定していた電車は、時刻どおりに駅に到着して、まひると由加利が降りてきた。
ホームで待っていた矢島に、二人が手を振って近づいてくる。
「おまたせ~」
いつもどおりの明るい声だ。矢島がちょっと照れくさそうにうなづく。
「楽しみだなぁ。矢島君の家は駅から遠いの?」
「いや、歩いて5分くらい。」
矢島が二人を先導するように歩きながら答えた。
矢島が言うとおり、矢島の自宅は駅前から歩いて5分程度の住宅地の中にあった。
赤いレンガ調の外壁に、こげ茶色のドア。矢島がそのドアを開けると二人を促して家の中に入る。
「どうぞ。」
矢島がスリッパを二人に出しながら言った。
「部屋、二階だから。。。」
矢島が先に二階に上がる。
「健一、お友達こられたの?」
居間のほうから、矢島の母の声が響く。
「あ、今二階に案内するから。」
矢島が答える。まひると由加利がほとんど同時に「おじゃましま~す」と声を出す。
矢島の部屋は6畳ほどの洋室だ。その隅のほうに、ハムスターとチンチラのケージがおいてある。
矢島がまずチンチラを外に出して、自分の肩に乗せる。
「お~すごい。私にもだっこさせて。」
由加利が手を出したので、矢島がチンチラを手渡す。由加利がチンチラをなでながら感動したように言った。
「お~ふわふわ。気持ちいい~。」
そんな由加利の表情を見ながら、矢島は奥のほうのハムスターのケージを引っ張り出した。
「これだよ」
矢島が示したところには6匹の小さなジャンガリアンハムスターがだんごのように固まっていた。
「わ~すごいちっちゃい。かわいいね~」
まひるが、大きな声を出しながらケージを覗き込んだ。
ハムスターのほうは昼寝中らしく、時々鼻の辺りをひくひくさせる以外はほとんど動かない。
そのとき矢島の部屋のドアがあいた。
「健一、お客さんの紅茶もって来たよ。」
トレーに紅茶を載せて、姉の洋子が入ってきた。
「あ、おじゃましてます。」
「いえいえ、どうぞゆっくりしてってね。」
洋子は矢島の部屋の真ん中の小さなテーブルに持ってきた紅茶を置きながら答えた。
紅茶を置き終わると、洋子はまひると由加利をしげしげと見ながら、ふんふんと何か納得するように何度かうなづいた。
「どうしたの、ねえさん?」
矢島に言われて洋子は、ただ黙って外に出て行った。
「なるほどね、そういうことか。。」
洋子は部屋を出るとそうつぶやいた。
「どれにしようかな?まよっちゃう。どれもかわいいし・・。」
まひるが、頬杖をつきながら言った。
「こんなにちっちゃくても、ちゃんと命があって動いてるなんて、なんかふしぎ。」
由加利が言う。
「ちっちゃくても、命の重さはおんなじだよ。無責任に飼いきれなくなったペットを簡単に捨てる人がいるけど、僕には信じられないな。。」
矢島がつぶやくように言った。
その言葉にまた、まひるの心は突き刺さるようなものを感じずにはいられなかった。
矢島は人の痛みも知っている。だから、動物たちの痛みも同じように感じることができる。矢島が最初「動物はうそをつかない・・。」と言った意味が、すこしまひるにも分かったような気がした。
「さ、どれにする?沢野さん。よければ、2匹でも3匹でも持って行っていいよ。沢野さんならかわいがってくれそうだから。」
まだ、矢島はまひるのことを沢野さんと呼ぶ。
矢島が自分のことを「まひる」と呼んでくれるようになったとき、きっと自分は矢島の友達になれるのだろうと、まひるは思った。
=つづく=