矢島は、まひるに手をひかれるように、動物園に入った。
断るつもりだったのに、まひるの勢いに押しきられてしまった。
「ね、まず何見ようか?」
まひるは、子供のようにはしゃいでいるように見えた。ただ、ばかにされるだけだと思っていた矢島は、ちょっとひょうしぬけしたようだ。自分のとりこし苦労だったのだろうか。それにしても、なぜ自分なんかをさそったのだろう。ほかにさそう男はいくらでもいるだろうに。
もちろん、矢島にまひるの意図などわかろうはずもなかった。
「ね、どうする?私ね、レッサーパンダが見たい。ぬいぐるみみたいで、かわいいでしょ?」
本当に子供みたいだなと、矢島は思った。
仕方ない、今日は腹をきめて、この子につきあおうか。そんな気持ちになった。
「いいよ。じゃあ、レッサーパンダで。」
「やった。じゃあ、いこ~~!」
まひるは、また矢島の手を引っぱって走りだした。
動物園にいるあいだ、常にペースはまひるがにぎっていた。
女の子といっしょにいることに慣れていない矢島にとって、ちょっとつらい状況だったが、もともと動物好きの矢島にとっても、ここは心休まる場所であることにはかわりはなかった。まひるのペースにちょっと疲れながらも、それなりに楽しんでいた。
まひるは、動物を見るたび、矢島になにかと聞いてきた。
「ねえ、キリンってさぁ、あんなに首が長いんだけど、首の骨っていくつあるのかしらね。人間の倍じゃきかないよね?」
矢島がちょっと笑いながら答える。
「人間もキリンも首の骨の数は同じだよ。知らなかった?」
「へぇ~そうなんだ。全々知らなかった。やっぱり矢島君物知りだね。やっぱり矢島君といっしょで正解だったな。」
まひるは、本当に感心しているようだった。実際、まひるは矢島とのデートを楽しんでいた。いろいろな事を親切に教えてくれる矢島のことを、やっぱりいい人なんだと思っていた。やっぱり、矢島にはもっと生活を楽しんでもらいたいと思った。
最後に二人が訪れたのは、昆虫館だった。
温室の中に無数の蝶が放たれている。ふわふわと飛ぶ蝶を見上げながら、まひるがつぶやいた。
「きれいね、チョウチョ。」
「そうだね。でも、もともとは青虫なんだけどね。」
まひるが、ちょっといやな顔をする。
「やだなぁ。チョウチョは好きだけど青虫は苦手。」
「でも、同じ虫だよ。姿はちがうけど、同じ虫なのさ。だから、僕はどちらも好きだよ。外見がちがってても、同じ。それに、あの青虫がこんなにきれいな蝶になるなんて、すごいと思うよ。沢野さんも、そう思わない?」
まひるは、何か矢島の一言が胸につきささったような気がした。
『姿はちがっても、同じ虫だから・・』
そう、矢島は他のクラスメートとほんの少しちがっただけなのだ。それなのに、矢島はそれを理由に、いじめられたのだ。青虫と蝶のように。
「そうだね、同じなんだよね。」
まひるは自分に言いきかせるようにつぶやいた。
そして、矢島のほうにふりかえると、せいいっぱいの笑顔で言った。
「ねえ、ちょっとおなかすいちゃった。何か食べにいこうよ。あ、それから私のこと呼ぶときは、『沢野さん』じゃなくて、『まひる』でいいからね。」
まひるは、また矢島の手を引くように歩きはじめた。
=つづく=
断るつもりだったのに、まひるの勢いに押しきられてしまった。
「ね、まず何見ようか?」
まひるは、子供のようにはしゃいでいるように見えた。ただ、ばかにされるだけだと思っていた矢島は、ちょっとひょうしぬけしたようだ。自分のとりこし苦労だったのだろうか。それにしても、なぜ自分なんかをさそったのだろう。ほかにさそう男はいくらでもいるだろうに。
もちろん、矢島にまひるの意図などわかろうはずもなかった。
「ね、どうする?私ね、レッサーパンダが見たい。ぬいぐるみみたいで、かわいいでしょ?」
本当に子供みたいだなと、矢島は思った。
仕方ない、今日は腹をきめて、この子につきあおうか。そんな気持ちになった。
「いいよ。じゃあ、レッサーパンダで。」
「やった。じゃあ、いこ~~!」
まひるは、また矢島の手を引っぱって走りだした。
動物園にいるあいだ、常にペースはまひるがにぎっていた。
女の子といっしょにいることに慣れていない矢島にとって、ちょっとつらい状況だったが、もともと動物好きの矢島にとっても、ここは心休まる場所であることにはかわりはなかった。まひるのペースにちょっと疲れながらも、それなりに楽しんでいた。
まひるは、動物を見るたび、矢島になにかと聞いてきた。
「ねえ、キリンってさぁ、あんなに首が長いんだけど、首の骨っていくつあるのかしらね。人間の倍じゃきかないよね?」
矢島がちょっと笑いながら答える。
「人間もキリンも首の骨の数は同じだよ。知らなかった?」
「へぇ~そうなんだ。全々知らなかった。やっぱり矢島君物知りだね。やっぱり矢島君といっしょで正解だったな。」
まひるは、本当に感心しているようだった。実際、まひるは矢島とのデートを楽しんでいた。いろいろな事を親切に教えてくれる矢島のことを、やっぱりいい人なんだと思っていた。やっぱり、矢島にはもっと生活を楽しんでもらいたいと思った。
最後に二人が訪れたのは、昆虫館だった。
温室の中に無数の蝶が放たれている。ふわふわと飛ぶ蝶を見上げながら、まひるがつぶやいた。
「きれいね、チョウチョ。」
「そうだね。でも、もともとは青虫なんだけどね。」
まひるが、ちょっといやな顔をする。
「やだなぁ。チョウチョは好きだけど青虫は苦手。」
「でも、同じ虫だよ。姿はちがうけど、同じ虫なのさ。だから、僕はどちらも好きだよ。外見がちがってても、同じ。それに、あの青虫がこんなにきれいな蝶になるなんて、すごいと思うよ。沢野さんも、そう思わない?」
まひるは、何か矢島の一言が胸につきささったような気がした。
『姿はちがっても、同じ虫だから・・』
そう、矢島は他のクラスメートとほんの少しちがっただけなのだ。それなのに、矢島はそれを理由に、いじめられたのだ。青虫と蝶のように。
「そうだね、同じなんだよね。」
まひるは自分に言いきかせるようにつぶやいた。
そして、矢島のほうにふりかえると、せいいっぱいの笑顔で言った。
「ねえ、ちょっとおなかすいちゃった。何か食べにいこうよ。あ、それから私のこと呼ぶときは、『沢野さん』じゃなくて、『まひる』でいいからね。」
まひるは、また矢島の手を引くように歩きはじめた。
=つづく=