その日は雨だった。

春の嵐とでも言うのだろうか、どしゃ降りの雨だった。

都内にある高校では、その雨の中入学式が行なわれていた。せっかく咲いた桜も、この雨にすっかり流されてしまいそうだ。
誰もが、新しい生活に心をおどらせているであろうそんな日に水をさす大雨。その中で特に浮かない顔をしている少年がいたことなど、その時は誰も気にとめてはいなかった。それよりも、せっかくそでを通したばかりの制服が汚れてしまうことに気をつかっている生徒が多かったにちがいない。

式は体育館でとどこおりなく進み、式が終ると生徒逹は自分逹の教室へと移動していく。

初めて入る教室。
初めて見るクラスメート。
何もかもが、彼らにとって新鮮だった。

同じ学校の出身者同志は楽しそうに話をしている。
とりわけ女の子たちは、にぎやかだ。黄色い声が教室中にひびいている。

そんな楽しいはずの場所で、ー人いすに座って外をただ黙って見ている男子生徒がいた。何をするでもなく、ただ外にうつろな視線を送っている。

そんな彼の姿を、ー人の少女が気付いた。
みんなの輪から外れ、少しの笑みも見せず、たった一人の彼。
どうしたんだろう?少女は、不思議そうに首をかしげて、少年の方へ歩みよっていった。

「どうしたの?何見てるの?」

明るく通る声だ。少年の顔をのぞきこんだ少女の少し短めにカットした髪が、
さらりとゆれる。
少年はそんな彼女の顔をちらりと見ただけで、小さく少しかすれた声で答えた。

「・・・・雨・・・・」

少女も外に目を移す。

「雨かぁ。。やだね、この雨。止んでくれないかなぁ。」

不愛相な少年の言葉に、少女は嫌な顔ひとつせずに言った。少年は黙ったままだ。むしろ、愛相よく話かけてきた少女のことを、気嫌いしてるようにも見えた。
しかし、少女はそんな少年の態度を気にする様子もなく言った。

「私、沢野まひる。よろしくね。あなたは?」

まひると名乗った少女は、また少年の顔をのぞきこむ。少年は、うっとうしいような顔を見せながらも、ロごもりながら答えた。

「・・・・矢島・・・矢島健ー・・・。」

「そっかぁ。矢島くんね?これからクラスメートだね。よろしく。」

まひるは、名前通り太陽のような明るい笑顔で言った。
しかし矢島の方は、わずかに頭を下げただけだった。まひるは、矢島のそんな態度が不思議でしかたなかった。
せっかく高校に入って、これからみんなと楽しくすごそうという時に、なんでこんなにさびしそうなんだろう?せっかく同じクラスになったのに、何か嫌なことでもあったのだろうか?まひるは、少し心配になってきた。

その時、校内にチャイムが流れた。

=つづく=