宮原 美佐子というアスリートを覚えていらっしゃることが、何人いらっしゃるだろうか。
彼女は昭和63年の大阪国際女子マラソンで、それまで日本人で誰も達成していなかった記録を打ち立てた。2時間29分37秒・・・日本人が苦労して苦労して、決して切れることのなかった2時間30分の壁・・・いわば世界の一流になるための最低条件・・・あの増田明美でさえなしえなかった偉業を日本人で初めて達成したのである。
それまでの日本女子マラソンの常識は2時間40分を切ることが「日本のトップランナー」の常識だった。それだけに彼女の功績は大きかったはずだ。

とはいえ、当時の世界最高記録とは9分の差があった。宮原の記録ではしったとしてもさらに3キロ先にゴールしてしまうという脅威の記録を持っていたのが、イングリッド・クリスチャンセンである。85年に記録した彼女の記録は2時間21分6秒・・・不滅の記録と思われた。しかし、それをも破る記録をうちたてたのが、テグラ・ロルーペである。99年のベルリンで記録した彼女の記録は2時間20分43秒。2時間20分が次の世界の壁となった瞬間だった。

その間、日本もつぎつぎと記録を打ち立てていく。。。小鴨が、松野が・・2時間26分台を立て続けにたたき出す。世界との差は確実に縮まっていった。

そして、初めて20分の壁を破る選手が現れる。ほかならぬ高橋尚子である。2時間19分46秒。新たな時代の到来であったが、それはすぐキャサリン・ヌデレバに1分短縮される。わずか1週間後のことだった。そして今女子の世界記録は2時間15分25秒の、ポーララドクリフである。15年の間に世界記録は6分短縮され、日本記録は10分短縮された計算になる。これでは、宮原の偉業も、クリスチャンセンの記録もかすんでしまう・・・。それまでの常識は完全に打ち砕かれてしまったのだ。

常識が打ち砕かれる瞬間というのは、スポーツに限ったことではない。病気治療や、科学知識、技術などいくらでもそれが打ち砕かれる瞬間は存在しうる。ひょっとしたら明日、難病治療の画期的な治療法が発表されるかもしれないし、それまでなぞとされてきた現象が解明されるかもしれない。
人間は無限に可能性を秘めている。私と同じ病気で苦しんでいる人たちが、ただの一錠の薬で数日で完解してしまうようなことだって、できるようになるかもしれない。用は不可能を可能に出来ると信じることかもしれない。

トリノオリンピックで、日本人選手が苦戦してる。彼らも不可能を可能にする積極的な朝鮮をしてほしいと思う。彼らはまだ若い選手が多い。トリノでの悔しさは、10年後、全くの常識変化が起きているかもしれないのだから。