日本人の8割以上が健康に不安を感じると答えるようになった昭和40年代後半から、さまざまな健康法が流行しては廃れるという現象が見え始めた。そんななかで突如ブームになったのが、砂糖入りの紅茶に生菌を繁殖させてつくる「紅茶キノコ」。酸っぱくなった紅茶に薬効があるとうたわれ、がんや胃弱、水虫やアレルギーなど万病に効くとされた。茶褐色のキノコ状に見える菌の塊が液面にできることから、この名前で呼ばれている。

 初めてこの健康法を世に紹介したのは、昭和49年出版の単行本『紅茶キノコ健康法』。これによると、紅茶キノコはソ連のシベリア地方のとある村で保健飲料として愛飲され、そのためかこの村ではがんや高血圧、脳卒中などが見られないという。この本が発売された当初はほとんど話題にならなかったが、翌昭和50年3月3日放送のワイドショー『3時にあいましょう』で取り上げられるや、紅茶キノコ健康法はあっという間に日本全土を席巻したのである。菌がすぐに繁殖するため、飲んでいる人から株分けしてもらえるなど、手軽さと経費の安さがブームに拍車をかけた。そしてついには、アメリカ、西ドイツ、カナダ、ブラジルにまで飛び火したのである。

 その一方で、効能を疑問視する声も増えていった。個人個人によって培養菌の種類が千差万別である上、有害な雑菌が繁殖する危険性が高いなど、医学や生化学の専門家から効用を否定する意見が相次いだ。同年6月10日付の『朝日新聞』にも、学問的な意味での報告はなく、専門家も医学的には効用を認めていないことが掲載され、「どうやら一種のし好品と考えたほうがよさそうだ」と結ばれた。また厚生省も、「実体が明確でないので効用もわからない」と述べるにとどまった。

 こうして、紅茶キノコ熱も同年末には急激にクールダウン。しかしそれから今日に至るまで、この種の健康法ブームは手を替え品を替え繰り返されている。