こんにちは。恵比寿で弁護士をしている弁護士紺野です。
離婚相談でたまにあるのが,
Q.夫との離婚を考えています。夫は会社員で,まだ退職していませんが,将来2000万円ほど退職金をもらえる予定です。今離婚してしまうと,私は夫の退職金をもらえないのですか?夫が退職するまで待つべきですか?
という退職金の問題です。
A.そこで今回は,退職金と離婚の問題について話をしてみたいと思います。
まずすでに退職金が支払われている場合。
これについては,問題なく財産分与の対象となるので,原則としてその半分(2分の1)は受け取ることができます。
ただし!
注意してほしいのが,「お金が残っていないともらえない」ということです。
夫が勝手に退職金を使ってしまった場合,もう後の祭りです。
使ってしまって残っていない場合は,いくら文句を言っても返してもらえません。
ですので,退職金を勝手に使われないよう必ずちゃんと管理することが大切です。
相談者の中にも,たまに「夫が勝手に退職金を使ってしまっていつの間にかほとんどなくなっていた。先生どうすればいいですか!?」と泣きつく方がいらっしゃいますが,
そうならないよう,退職金が支払われた時点で夫婦でちゃんと話し合って,ちゃんとご自分で管理しておくようにしましょう。
自分の分(退職金の2分の1)を確保しておけば大丈夫,というわけでもないので,注意が必要です。
つまり,夫が夫の分(退職金の2分の1)を使ってしまった場合,残っているあなたの分(退職金の2分の1)が財産分与の対象となるので,結局あなたの分のさらに半分(2分の1)を夫に渡さなければならなくなり,結果的にあなたの手元に残るのは,退職金の4分の1ということになります。
ですので,必ず全額をご自分で管理することが重要です。
以上がすでに退職金が支払われている場合の注意事項です。
次からが本題です。
まだ退職金が支払われていない場合でも,退職金相当分をもらえるのか?それとも退職するまで待たなければならないのか?
退職金は,給与の後払い的性格と言われていますので,給与が支払われる場合と同様,財産分与の対象となり得るものです。
過去の裁判例からしても「近い将来に受領し得る蓋然性が高い場合」には財産分与の対象となることは確立していると言ってよいでしょう。
つまり,退職金がまだ支払われていない場合でも,財産分与の対象となって受け取ることができる場合がある,ということです。
ただ,無限にできるわけではありません。
上に書いたとおり,「近い将来に受領し得る蓋然性が高い場合」という制限がかけられています。
では,「近い将来に受領し得る蓋然性が高い」とはどういう場合をいうのでしょうか。
過去の裁判例を整理すると,定年退職までの期間が「10年」以内か,というのが一つの目安に考えていいと思います。
ただし,相手方の職種,勤務先の形態・規模・経営状態,退職金規程の存在等も考慮して総合的に判断されているようです。
裁判例を整理してみます。
◆定年退職まで5年
【東京地裁平成17年1月25日判決・判例秘書06030199】
⇒夫は信用金庫に勤務。
【大阪高裁平成19年1月23日判決・判例タイムズ1272号217頁】
⇒夫は公的金融機関勤務
【東京家裁平成22年6月23日審判・家月63巻2号159頁】
⇒夫は国家公務員
◆6年
【東京地裁平成11年9月3日判決・判例時報1700号79頁】
⇒夫は私企業に勤務
◆7年
【東京地裁平成15年4月16日・判例秘書05831633】
⇒相手は私企業に勤務
◆8年
【名古屋高裁平成12年12月20日判決・判例タイムズ1095号233頁】
⇒相手は国家公務員
◆9年
【東京地裁平成17年4月27日判例秘書06031697】
⇒相手は学校法人勤務
以上のとおり,定年退職までの期間が10年以内であれば,退職金を請求することが十分可能だといえます。
では,請求できるとして,次に問題となるのが,①「退職金」の金額をどのように算定するのか,②支払時期はいつになるのか,という点です。
まず①「退職金」の金額をどのように算定するのかという問題です。
これは,つまり,現時点で退職したと仮定して,その時に支給される退職金の額を財産分与の対象とするのか,それとも
定年退職時に支給されるであろう退職金額を元に財産分与対象額を決めるのか,
という問題です。
一般に,定年退職時に支給されるであろう退職金額を元にした方が,退職金額が大きくなります。
ただし,現実に定年退職まで勤め上げるのかは,現時点では確定できず,定年前に退職してしまった場合,不均衡が生じます。
過去の裁判例をみると,結論は確立されていません。
現時点で退職したと仮定して金額を決めるものもあれば,将来の定年退職時の退職金を対象とするものもあり,どちらもあり得ることになります。
ですので,自分に都合のいい方を主張(請求する方であれば,定年退職時の退職金を主張し,請求される方であれば,現時点での退職金を主張)するしかありません。
次に②支払時期をいつにするのか,という問題です。
つまり,離婚時に支払うのか,それとも,実際に退職して退職金を受け取った時とするのか,という問題です。
過去の裁判例をみると,
多いのは後者(実際に退職して退職金を受け取った時)の方が多いようです。
やはり実際に退職金を受け取る前では,資力に乏しいということが理由にあると思われます。
離婚時に支払うことを認めた裁判例も,夫側(支払う側)に多額の預金がある事案など,やはり資力に配慮した結論になっているようです。
以上です。
離婚を悩まれている方!10年という基準を一つの判断要素としてもいいかもしれません!
弁護士紺野加奈子