トルストイの「復活」を読んで裁判を考える | 弁護士の労働問題解決講座 /神戸

弁護士の労働問題解決講座 /神戸

労働問題で活躍する弁護士が,
解雇・残業代・労災などを解決し
あなたの権利を,100%追求する
ノウハウをblogで紹介します。

弁護士の萩田です。いつもありがとうございます。

コロナと長雨は、家での読書に最適です。

愛の理念と人間の復活をテーマにした19世紀ロシア文豪トルストイの「復活」を1日かけて読みました。

(あらすじ)
殺人事件の陪審員として刑事裁判に出席した主人公(公爵)は、被告人が、かつて叔母の家の小間使いをしていた女性であることに気づく。陪審員は無罪と判断したのに裁判官の手続ミスがあって、被告人は流罪が宣告される。主人公の公爵は愛する被告人を救うために奔走する。

こんなあらすじです(実話をもとにしているそうです)が、同時に、この小説は、当時の専制ロシア帝国の裁判の様子を詳しく描写しています。

1 19世紀ロシアの刑事裁判は陪審制だった!
 まず前提として、当時のロシア帝国では、まだ国会も存在しませんし、司法の独立も存在しません。
 それでも刑事裁判は、陪審制をとって、国民(といっても有産階級)が被告人が有罪か無罪かを破断するという仕組みをとっていたようです。
 日本に比べて100年以上も進んでいたことになります。日本の裁判員裁判はやっと21世紀になってからです。

2 利害関係者が刑事裁判に関与していた!
 ところで、公爵は、被告人の利害関係者であるにも関わらず、刑事裁判の陪審員として関与したうえ、有罪となった被告人を救うために拘置所に足繁く通って接見し、上訴の手続に関与していきます。さらに個人的なコネクションを使って上訴院メンバーに面会したり また、上訴が失敗したあとは皇帝への嘆願(恩赦)によって、被告人の流罪を軽減させることに成功します。
 このあたりは、縁故主義というか、前近代性が残っていることを感じます。利害関係者が裁判に関与するというのは、公平らしさを強調する日本の裁判所ではぜったに考えられません。

3 上訴手続は2審制で、最後は皇帝への嘆願(恩赦)の制度がある!
 ロシア帝国の刑事裁判は2審制で、上訴院は元老院貴族が手続的な誤りのみ判断するという制度だったようです。日本は3審制ですが1審重視なので、その点はロシア帝国とあまり変わらないかもしれません。

4 刑事裁判の目的は治安の維持か!
 当時のロシアは政治犯(専制に反対する社会主義者や無政府主義者)を理由もなく逮捕し投獄したり、刑法犯も簡単に有罪宣告されていました。
 これに対して、主人公の語りを利用して、トルストイは当時の専制批判をしているわけですが、これがけっこう名言です。

--裁判所は社会を現状のままで維持することだけを目的にしているんです。そして社会の水準より高くてその水準を向上させようとしているいわゆる政治犯も、水準より低いいわゆる犯罪型の人間(刑事犯のこと)も、どちらも迫害し、処刑しているんです--
(岩波文庫 藤沼貴訳 下p214)

たしかに、有罪率99%を誇る日本の刑事裁判を経験すると、日本の刑事裁判も治安の維持を目的としているのではないかと感じることが多い。推定無罪とか、疑わしきは罰せず、ではなく、必罰主義ではないか?


人道主義のトルストイの小説を読み直し、法律や裁判は人間から遊離した1つの制度として超然とそびえ立っているのではないか。
そう思い直すきっかけになりました。