弁護士の萩田です。いつもありがとうございます。
新聞雑誌では、テレワーク推進論者が「ハンコ」文化のせいでテレワークが進まない、と声高に叫んでいます(ホントにみんな)。
契約、決済、稟議などで押印しなければならないのでテレワークが進まない、ひいては円滑な経済活動を阻害している、という論法です。
それでは、法律上ハンコにはどんな意味があるのでしょうか?
1 ハンコがなくても契約は成立する
出発点において、一般の方と法律家との間で根本的な違いがあります。
署名とハンコのある契約書がなければ契約が成立しない、というのは世間常識です。
しかし、民法は意思主義をとっており、両当事者の意思が合致したら契約は成立します。一番身近なのは、コンビニなどのお店で物を買うときです。コンビニでお弁当を買うときにハンコをおしている人などいません。それでも売買契約は成立しています。
したがって、不動産取引であっても、ハンコや契約書がなくても契約は成立します。
2 契約書は証拠である
では何のために契約書があるかといえば、端的に言えば、細かい条件などを取り決めて証拠としてお互いに保管するためです。
あとで裁判になったときの決定的な証拠が契約書です。
言った言わないの水掛け論にならないように契約書を交わすわけです。
3 ハンコには訴訟法上、特殊な効力がある
さらに、契約書に、文書作成者本人のハンコが押されている場合、その文書は本人が作成したものと推定されます。
推定なので、他の証拠でそれを覆すことも可能ですが、裁判所はハンコが押してある証拠を信用する傾向が強い。
4 テレワーク再考
ただし、最近は、FAX、電子メール、SNSなど、お互いのやりとりがたくさん残っていることが多いので、契約書がなくても、FAXや電子メールなどのやりとりを寄せ集めれば、契約の成立を証明することは容易になっています。
したがって、ハンコ文化がなくなったとしても困らない時代になってきていると言えます。むしろ、テレワーク社会では、電子メールやSNS、teamsのファイルなどによって、契約の成立などは否認できない状況になりつつあります。
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