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仙台の弁護士 伊藤薫徳(いとうまさのり)のブログ

仙台で弁護士を開業している伊藤薫德のブログです。
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コアラ 最近、うちの同僚で怪しい奴がいるんだ。


クリリン 唐突ですね。

怪しいって何がですか?


コアラ どうやら、社内不倫しているみたいなんだ。

数年前に結婚して、子どもが生まれたばかりなのに。


クリリン 不倫が事実であれば、許されないことですね。


コアラ 不倫ってのは犯罪ではないんだよな。


クリリン 犯罪ではありません、過去にはそういう時代もありましたけどね。

しかし、不法行為ですから、違法といえます。


コアラ 同僚の奥さんの側から、不倫相手に対して慰謝料請求できるということだな。


クリリン はい、不倫相手に対してはもちろんですが、離婚することになれば、奥さんは同僚の方に対しても慰謝料請求できます。


コアラ 会社も同僚とその不倫相手の従業員に対して懲戒処分できる?


クリリン それは難しい問題ですね。

今回は社内で不倫する従業員に対する懲戒処分の可否について説明したいと思います。


コアラ 難しい問題と言うけど、違法なんだろ?

違法行為に対して懲戒できるのは当然じゃないか?


クリリン 不倫と言っても、恋愛ですからね。

恋愛は、個人のプライベートに属しますし、憲法おいても、幸福追求権として保障されている権利です。

ですから、たとえ不倫であっても、その事実のみをもって懲戒処分をすることは難しいでしょう。

懲戒処分の対象となるとすれば、不倫が社内秩序の維持や業務に支障をきたす場合です。

モデル就業規則でいえば、11条4項、61条1項④、⑤、⑥、⑦、2項⑦ですね。


コアラ 不倫自体、素行不良だし、社内の風紀を乱してるんじゃないか。


クリリン 当該従業員の不倫行為が、実際に社内の風紀を乱しているか、また乱すおそれが客観的に認められるかどうかを、慎重に判断しなければなりません

判断枠組みとしては、①従業員の地位、②職務内容、③交際の態様、④会社の規模、業態、⑤会社の信用への影響の有無、⑥会社が被った損害を総合考慮し、会社の業務への影響が看過できない場合にのみ懲戒処分の対象となると考えます。


コアラ 従業員の地位や職務内容は、やっぱり責任ある立場の人間が不倫することで、その部署の効率に影響があるということかな。


クリリン そうですね。

それに、対外的な部署かどうかも、会社への影響を考慮する上で問題となりますね。

また、不倫が上司と部下の関係で行われる場合、部下は拒みにくいという事情もあります。

セクハラとしての色合いも帯びるわけです。


コアラ 会社の規模や業態はどう関連するんだ?


クリリン たとえば従業員数が少なくて、皆が同じオフィスで働いている場合、不倫関係にある2人が同じ空間にいることで職場の雰囲気に対する影響は大きいですよね。


コアラ 会社の信用が害されるのはどういう場合?


クリリン たとえば、取引先の従業員と不倫をしたということであれば、取引先はその従業員を担当から外さなくてはならない場合もあり得ます。

自社の担当者を送ること自体、やめたいと思うかもしれませんね。

また、不倫行為に関して、取引先に怪文書が出回るようなことがあれば、会社の対外的な信用が失墜することは明らかです。


コアラ なるほどな。


クリリン そして、懲戒処分に関しては、これまでも述べてきたとおり、労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は権利濫用として無効となることに留意する必要があります。

それでは、裁判例を見てみましょう。

まずは、旭川地裁平成元年12月27日、繁機工設備事件です。

この事件では、妻子のある同僚男性Aさんと不倫関係になった女性従業員のBさんが、C社から交際をやめるよう注意されましたが交際を継続したことに対して退職勧奨されたのを拒絶したことから、C社がBさんを懲戒解雇した事案で、懲戒解雇処分の無効が争われました。


コアラ 交際の態様はどういうものだったんだ?


クリリン 事務所内で弁当のおかずを交換したり、事務所の机を隣接させたりしていたようですね。


コアラ それは同僚としては居心地が悪いだろうな。


クリリン しかし、裁判所は、本件懲戒解雇を無効と判断しました。

まず、BさんがAさんと「男女関係を含む恋愛関係を継続することは、特段の事情のない限りその妻に対する不法行為となる上、社会的に非難される余地のある行為であるから、債務者の前記就業規則第二三条二号所定の「素行不良」に該当しうることは一応否定できないところである。」と、不倫については非難しています。

しかし、就業規則中の「職場の風紀・秩序を乱した」とは、これが従業員の懲戒事由とされていることなどからして、会社の企業運営に具体的な影響を与えるものに限ると解すべきとした上で、従業員の地位、職務内容、交際の態様、会社の規模、業態等に照らしても、BさんとAさんとの交際がC社の職場の風紀・秩序を乱し、その企業運営に具体的な影響を与えたと一応認めるに足りる疎明がないことを理由に、企業運営への具体的な影響があったとは認められないので、懲戒解雇を無効としたのです。


コアラ つまり、証拠不十分だったわけか。


クリリン そういうことですね。

C社は、AさんとBさんが「休息時間に一つのどんぶりからラーメンを交互に食べるなど余りにも常軌を逸する行為」をしたり、2人を見兼ねた他の従業員たちが事務所に立ち寄るのを避けるようになったり、Aさんが本来不要である業務にかこつけてBさんのいる事務所で常駐するなど、業務に支障を来したと主張していましたが、証拠に基づいた立証がなされませんでした。


コアラ 立証できれば、懲戒解雇処分が有効となった可能性はあるかい?


クリリン より緩やかな懲戒処分を経ているのではなく、懲戒解雇という極めて重い処分をいきなり行っていること、不倫の相手方であるAさんに対しては懲戒解雇を行っていないという不公平さ、会社の業務に対する損害の程度等に鑑みると、懲戒解雇処分はやはり無効となったと思われます。


コアラ なるほどな。

やはり懲戒解雇はよほどのことでないとできないということだな。


クリリン そうですね。

次回は、引き続き、社内不倫について、懲戒解雇が有効とされた事例と無効とされた事例を紹介したいと思います。



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