ピアノを演奏をする時、基礎や技術的な事は勿論必要なのですが場合によってそれ以上に重要な要素があります。
それは、”どう”弾くか。

曲にはそれぞれテーマがあります。作曲者が意図した確固たるイメージ。
クラッシックの場合、既に亡くなっておられる方が多いので実際の考えは分かりません。

ただ、譜面上の指示や曲の構成、流れ、伝記、手記等でそれを読み解く事は出来ます。
勿論そのとらえ方は千差万別で全員が同じ考えにはならないでしょう。各々が様々な情報から自分自身のイメージを確立していきます。
そして、ただ漠然と弾くのとイメージを持って弾くのとではかなりの違いが出るのです。

という訳で今回ベートーヴェンの”月光”第1楽章を自分なりに考えてみました。

まずタイトルの”月光”ですが、これはベートーヴェン本人が付けた訳ではないというのは周知のとおりで、ドイツの音楽評論家が「スイスのルツェルン湖の月光の波に揺らぐ小舟のよう」と表現したことが由来の1つです。
確かにイメージピッタリです。私もこのイメージで弾いていました。若干の違和感がありつつ。

演奏記号は”adagio sostenuto”(ゆるやかに、音を保持して)。
そして冒頭に”Si deve suonare tutto questo pezzo delicatissimamente e senza sordino.”(全曲を通して可能な限り繊細に、またsordinoを使用せずに演奏すること)という表記があります。
”sordinoを使用せずに演奏すること”とはサスティンペダルを踏みっぱなしでという意味です。ただし、現在のピアノでは音が濁りすぎるため工夫(ハーフペダルなど)が必要です。

さて、先に述べた違和感ですが、39~40小節の流れと最後の和音。
この部分だけどうしても月の光や湖と結びつかないのです。
延々と続く3連符に重い右手のベース。まるで人の列が重い足取りで静かに歩いている印象。最後の和音は低い鐘の音に感じます。
それに先の冒頭の表記を当てはめて私が想像したのは・・・

葬送行進曲。

ベートーヴェンはいくつかの葬送行進曲を作曲しています。
ピアノソナタ第12番の第3楽章
交響曲第3番の第2楽章
(交響曲第7番の第2楽章も当てはまるかもしれません。)
なので格段珍しいことではありません。

ただ、葬送行進曲には、”短調2拍子で拍子内を3分割しない”という音楽的決まりがあります。
”月光”第1楽章は短調2/2拍子ですが、拍子内に3連符を使用しているためこのルールからは外れてしまいます(たぶん)。
しかしベートーヴェンは作曲法上ありえない事を多々やっているので、もしかしたら実験的な試みで作った可能性もあります。

と、いう訳で私は現在この曲をそういうイメージで弾くことにしています。
まあ、思考と技術がついていってませんが、それはこれからの課題ということで ^^;

このような楽曲分析(アナリーゼ)は面倒くさい(おい!)作業です。
でも、いろいろ想像をめぐらせて弾くのは楽しいことでもありますね ^^