芽生え
治雄には3歳後半から、おぼろげな記憶があった。保育園の先生のジャージが大好きで、先生にじゃれつきながら足にしがみついて、太股に頬を寄せたり、お尻に頭を押しつけたり、時には顔を押しつけてみたり、ほかの子供とはどうも行動に違いが見られていたようだった。
はっきり記憶しているのは、4歳の頃、家の近くの孝史君というとも立ちの家に遊びに行った時のこと、彼のお母さんの朱色に近い赤いハイヒールに自身を同化していき、自分がハイヒールになって、使われることに幼いながら性的興奮を覚えていった。
小学生になると同級生になど全く関心がなく、担任の女教師と音楽の女教師に特別な思いを抱いていた。
担任は骨太の強い女性で、身体能力が高くて、軽く力負けしそうで、いうことを聞かない男子生徒を押さえ付けて、締め上げているところをみては、自分も何か反抗して、厳しい対応を求めてみたいと思っていた。
締め上げられたら、あっさり骨折したり、窒息したりして、多分快感など得られないだろうと子供ながら感じていた。
下校時に時々スカート姿をみかけ、ふともののボリューム感、脹ら脛の締まり具合、足首のまっすぐな形など、確認する点はその頃から変わりなく、かなりの高得点であったが、なにしろ力強すぎた。
あんな太股に首を挟まれたら一瞬で、落ちてしまいそうな予感がしていた。
そんな調子で、担任の女教師は恐ろしい、憧れの存在であった。
音楽の女教師は痩身で、きれいで長い上肢、きれいな手で、足もほっそりとした、幽霊風の女性であった。
でも腰は立派で、あのお尻に顔を埋めてみたい、ピアノの椅子として使われたいと毎度授業中に空想していた。
そんな二人の女神様達は小学4年にあがる際に結婚され、遠くに赴任され、手の届かない存在になってしまった。
元より手が届くはずもないので、空想の世界で更に敗北してしまったという方が正確であろうか。
中学生になると友人と異性のこと、アイドルのことで盛り上がるのは昔も変わらず、自分だけは未熟な女の子に全く興味などなく、時々湧き上がる女性に組み敷かれたい、支配されたい思いをかき消して平静を装う日々が続いていた。
それが大きく変わったのは、中学1年の秋頃、夕方の新聞配達を終えて、帰宅途中にふと寄った書店で、H本を盗み見していた時に小型のやや厚めのものを見つけ、そっとみるには最適で、手に取ってパラパラめくってみたところ、あの画を発見してしまった。
豊満な女性が小柄な貧相な男の顔にどっかと座っていて、勝ち誇った表情をみていた。
こんな世界が実在したのか。
それが一番初めの思いだった。
ページをめくると女性の裸のお尻が男の顔面を捉え、それはどうみてもこれから使われてしまうというシーンに思われた。
次のページでは、女性が男の口に勢いよく放尿し、さも当然のことという澄ました表情に女性ながらの冷血漢の予感をさせていた。
それから自転車で家路についたが、どこをどうやって帰ったか、覚えていなかった。
あの画が欲しい、あの本が欲しい。
でも買うのはまず無理だな。
多分毎月新しいのが出るだろうから、かっちりと画を記憶しようと心に決めた。
次の月、早く次号が出ないか、あの書店でH本コーナーに熱い目線を送っていた。
やっと発売になった。
画は物語風に5枚程度掲載されていた。
今回はセーラー服の女子生徒が先生を組み伏せていた。
ページをめくっていくと今回は放尿だけでは許してもらえなかったようだった。
どうも趣味と違うようだった。
次の月は女教師が脚とお尻を使って男子生徒を拘束していて、とっても幸せそうだった。
こんな事が現実にあったら、最高だろうと思ったが、そもそもあんなきれいな若い女性教諭などいなかったので、空想のまた空想だろうと時々夢の世界に迷い込んで心地よい眠りにつくことに貢献してくれていた。
出会いは突然
特に男女交際に興味もなく、スポーツも特に関心がなく、趣味といえば、漫画やアニメをみる事くらいだったので、余った時間は勉強に向け、高校は男子校の進学校に通うことになった。他を見下したような連中が多くて、なかなか友達ができなかったが、学園祭の準備でクラスメートと打ち解ける中で、父親がクリニックを経営しているサトルくんと仲良しになった。
彼はその時点では医師になりたいかどうか、自分では分からないし、親からも特に指示はないから、自由にしていると言っていた。
私は文系に進もうと思っていたので、医師なりたいという連中の気持ちは全然分からず、きっと窮屈な人生が待っているのだろうと気の毒に思っていた。
彼の家を訪ねるとずいぶん立派の屋敷で、隣がクリニックになっていて、廊下で繋がっているようで、時々、職員が家の方までやってきていた。
看護婦さん(今で言えば看護師)は特有の優しさと気の強さに裏打ちされた冷たい感じの菱面があって、近づきがたい存在ながらもやはり憧れがあり、白いスカート、白い薄手のストッキングがなまめかしくて、もやもやと少年期特有の現実味のない妄想が沸き立ってきていた。
クリニックには3人のナースがいて、志都子さんという長身のナースの脚に思わず見とれてしまった。
サトル君によると志都子さんはオートバイで通勤していて、話によるとバツイチで、子供は小学校低学年とのことで、子供がいそうには見えないずいぶん活発な女性に見えて、更に気になりだしていった。
昼食は家の方で、サトル君のお父さん、お母さんとクリニックのスタッフ全員で摂ることになっていて、土曜の午後遊びに行くと昼休みの時間も家の方で寛ぐ志都子さんを見かけることがあった。
もともとオートバイや車に興味を持っていたこともあるし、志都子さんのオートバイを見てみたいという思いもあって、クリニックの駐車場奥に行ってみるとバイクというより、白バイみたいな大きな二輪が堂々と停めてあり、女性が扱えるものなのか、不思議に思いながら、エンジンや足回りをしげしげ眺めていた。
ふと気づくと後ろに志都子さんがいて、微笑みながら見つめていた。
「オートバイ好きなの?」
「機械全般が好きなんです。」
「お医者さんになるんでしょ?」
「文系かなと思っているし、理系なら工学部がいいかと思っているんです。」
「あら、お医者さんになればいいのに。」
「どうしてですか。」
「お金一杯儲かるし、女の子にももてるじゃない。」
「いや、そんな。サトル君もまだ決めてないって言ってるのに。」
「それもそうね。」
志都子さんはジーパン姿で、さっとシートに跨がるとエンジンを始動して、両手が塞がっているためか、ヘルメットのまま頷くようにあいさつをくれ、颯爽と飛び出していった。
ヘルメットに収まらずにたなびくやや茶色がかったストレートの髪、腰のラインが見事で、ピンと張ったお尻が去り際にずっと目線を一点に集めさせるように強烈な自己主張をしていた。
それから1週間は志都子さんのジーパン姿のお尻を思い出しては、少年期の迸りを続けていた。
高2の秋、文系か理系かいよいよ決めなければいけない時が来て、文転はあっても、理転はかなりむずかしいよと聞いていたので、理系に進むことにした。
医学部受験クラスはなんとも言えないエリート意識か、排他的な姿勢が目立ち、サトル君がそこに居ることになんとも苛立ちを感じていた。
親の仕事を引き継ぐのは、患者さんのためと思って、割り切ったと彼は言っていたが、割り切るというのは図分とそれこそ割にいい仕事ではないかと思った。
サトル君の家に行くのは、志都子さんに会いに行くためのようなもので、エンジン、サスペンション、ブレーキ、タイヤや電気系のことを志都子さんと話しているうちに進路は工学部という流れがいつの間にかできあがり、いじったこともないのに志都子さんのオートバイのメカニックみたいに仕入れた知識を披露していた。
サトル君からは、
「彼には女性より機械が恋人になるかもね。」
などと志都子さんの前で揶揄われ、そういえばそうかもしれないとなぜか納得していた。
高3の夏、息が詰まる程ではないにせよ、受験生という重石はずっしりと肩にのしかかっていた。
そんな生活の中で、サトル君を訪ね、志都子さんのオートバイをみるのが気晴らしにもなるし、志都子さんと話して、いつものピンと張ったライディングウェア姿を見ていると頑張っていこうと意欲も湧いてきて、このままエンジニアの道に進むのが既定路線と思うようになった。
「オートバイ乗ったことあるの?」
「免許ないから」
「免許、もうとれるでしょ」
「大学生になってからかな」
「息が詰まってるんじゃないかと思って」
「窒息しそうです」
「でしょうね。じゃ、後ろ乗せてあげようか」
志都子さんは控え室から別のヘルメットを取ってくるとそれを頭に被せてくれ、あごひもまで締めてくれた。
脇道から街道に出て、速度を上げていくと風がとても気持ちよかった。
後ろのグリップを握って、振り落とされないように踏ん張っていると、
「落としちゃわないか心配だから、私に捕まって」
「良いんですか」
両手を志都子さんの腰に回し、その背中にぴったりと上体を当ててみた。
温もりと柔らかさがとても心地よく、オートバイにタンデムしていることなど忘れそうになった。
サトル君の家に自転車を停めていたので、近くまで戻ってもらい、志都子さんに礼を言ってから、ヘルメットをもって、クリニックを訪ねた。
サトル君はオートバイに乗せてもらったことはなく、うらやましそうに感想を聞いてきた。
まさか、とっても柔らかくて温かかったなんて言えるはずもなく、風を切って走る爽快感がすばらしいとかありきたりの文句でその場をしのいだ。
帰宅して、腰をつかんだ感触を思い出していると多分二度とそんな機会はないだろうから、両手で胸をギュッと握ってみた方が良かったんじゃないかなど、できもしない妄想がまた沸き立ってきた。
翌春、無事隣県の大学の工学部に合格し、晴れて大学になった。
オートバイの免許も取って、250ccの中古のオートバイをアルバイトして買った。
M男ライフはというと、毎月月刊のSM雑誌を購入し、夢想に耽っていたが、そろそろ実践に移そうと、そのための資金確保のため、せっせとアルバイトに励んでいた。
飲み屋街の情報誌を見るとSMクラブが6軒程載っており、1軒目から電話して、とにかく行ってみることにした。
行ってみると縛り上げられ、鞭打たれ、蝋で固められ、浣腸に耐えるという定型的なプレイが続いて、その中に喜びを見いだすのは困難ではないかと思い、失意の中で帰宅するというのを繰り返していた。
最後の6軒目、ほとんどプレイというものはなく、ただ女王様と話をするばかりであったが、少年時代より膨らみ続けた妄想は風船が針で突かれるように一気に窄んでいき、まず女性を知るところからはじめないとSMという高度な、時には命がけの魂の交流を求めることなどできないと教えられた。
確かにその通り、敵?を知らずに戦えるはずはないだろう。
彼女を作ったら良いのか、合コンでも行こうかとも考えたが、そんな面倒なことはしたくないし、どうせわかり合えるはずもないと思っていた。
幸か不幸か、大学生活を送った街は全国的に知られた歓楽街があり、ソープランドも情報誌に溢れる程の掲載があったので、サークルの先輩、仲間から得た評判から、早速出かけることにした。
童貞喪失はあっけなかった。
SM本を見ながら手で刺激するのと嬢さんの腟内に射精するのとあまり違いを感じることなく、ただ、これで一人前の男になったのかなと少し自信が湧いてきたというのが一番の感想であった。
「知らないことは調べる。本を読んでも分からなければ、よく知っている人に素直に尋ねる」
こうして生きてきたので、女性との付き合い方、セックスに至る過程について、その道のプロフェッショナルであろう、ソープ嬢さんに付き従うことにした。
多分かなり面倒で嫌な客だったことだろうが、立位での抱きしめ方からキスまで教えてもらい、フィジカルな手当より、女の子の好みそうな話題や生活習慣まで、ずいぶん親身の指導を受けることができた。
週3日夜のコンビニでのアルバイト、週末は校外に測量のバイトや調査の手伝いなどに励み、支出と言えば、本代、部屋代と学食の定食代くらいで、残りはSM関連のビデオや書籍購入とソープ通いに使っていた。
なじみになったソープ嬢は早く彼女ができて、青春を謳歌するのよ、なんて言われたが、m男の喜びはそんなところにないわけで、段々ノーマルな?男女交際の手ほどきに申し訳なさと違和感と罪悪感まで覚えはじめた。
合コンの芳しい結果でも知らせられたら最高なのだが、そうはいかず、結局ソープ嬢さんの最大限の気遣いは徒労に終わってしまった。
「結局、どうしたいのよ?」
うなだれるほかなかった。
ごちゃごちゃと性癖を並べていると、嬢さんは呆れたような、諦めたような表情を見せ、
「なんだ、そんなことか。別に一杯いるわよ。大丈夫よ。」
慰められ、宥められ、もう顔も上げられなかった。
「良いわよ。して欲しいんでしょ。大丈夫よ。」
その日初めて嬢さんのお聖水を飲ませて頂いた。
「もっと早く言えば良いのに。」
全く躊躇なく、飲みやすいように流速調整までしてくれて、全部口に注いでくださり、完飲が叶い、ずっと悩んで迷いに迷ってきたのがアホらしくなってきた。
自分の性癖、嗜好を満たしてくれるのは別に女王様じゃなくても良いんだと、その時大きな勘違いをしてしまった。
嬢さんはできないこと以外は何でもしてあげるから、隠さず、遠慮なく言って欲しいと帰り際に告げたので、すっかり気を良くして、願望を頭の中で並べてみた。
「来たわね。」
次回訪れるとなじみの客に対する親しみと言うより、m男相手の口調はこんな感じかという接客に移行していて、少し気分が悪いような、でもやっぱりこれを期待していたという揺れる思いを抱きながら、前回言われたことを頼りに脚なめから、踏みつけまでしてもらい、それからお聖水を受け、顔面騎乗から、アナルの舌奉仕をしていると
「出るかなあ?」
と黄金の準備まであるのかと少し驚いていた。
「あなたね、ここはSMクラブじゃないんだから、絶対汚せないのよ。分かってるわよね。食べたいというならしてあげても良いけど、絶対に履いたりしないこと。約束できるの?」
そんなことを言われても経験がないので、どうなるか全然分からない。
お聖水は全く抵抗がなくて、満足感ばかりだったが、黄金はそうはいかないかも、と急に気が弱くなってきた。
「ほら、中に舌差し込んで、出てきたら、そのまま口付けたままよ。そう、絶対に口離しちゃだめ。ゆっくり出してあげるから、そのまま噛まずに飲み込むのよ。分かった?」
お尻の下で頷くのを嬢さんは感じたようで、
「ぜーんぶ、食べるのよ。」
なんだか嬉しそうに言われるとm男の矜持、絶対に完食しないとこの先はないと思った。
あっけなく、黄金まで経験し、m男というより、ただのスカトロジストかなとしばらく凹んでしまった。
m男って何なんだろう?
女王様とソープ嬢って何が違うの?
ソープランドに通いながら、SMクラブにも月一回は出かけていて、女王様に尋ねてみた。
「私はm男なんでしょうか?」
「縛られると激しく興奮してるし、耐えることに喜びを見いだしてるみたいだから、m男の素質はあると思う。ただ、まあ尻フェチよね。これから私が調教してあげるから、心配しないで。」
そんな話をして以降縛りも鞭もかなり厳しくなり、尻への調教も容赦なしとなって、一通りにプレイに毎回苦しみながらもなんとなく光が差してきた気がしていた。
一方、私が尻フェチで、顔面騎乗に激しく萌えることから、全体重をかけたり、エナメルのタイトなシーツ越しなどフェチズムに浸る余裕など与えられず、圧迫感と窒息の恐怖感に耐えることに重きが置かれていき、舌奉仕など全く考慮されず、舌は女王様のたばこの火を消す時に使用されるだけで、mの嗜好を矯正?、変えていくことに女王様のありがたみを感じていた。
ソープランド通いでは、SMごっこのような内容は盛り込まず、許される時間、嬢さんのお尻に敷かれて、ずっと舌奉仕を続けて、可能な時は黄金まで頂き、お聖水は毎回というルーティンができあがっていた。
そのことも含めて、SMクラブの女王様にはすべてお伝えしていたので、そのままではただの便器になってしまうと懸念を示され、ソープランド通いは中止することになった。
その代わりに友人のS女性を紹介され、m男としての精進を忘れずに女性の役にも立つようにと指導方針を新たに示して頂いた。
再会
クラブの女王様から紹介された女性との待ち合わせ場所は臨海公園と称しているところで、昼間は散策に訪れる人が多く、夜になると暴走族やカップルまでたくさんの車が集まってくるので、16時という待ち合わせ時間は微妙なところであった。
15時にはオートバイで出かけて、海沿いを歩き、歩いている女性、自転車の女性、車で来た女性についつい見入りながら、駐車場から少し距離を置いて待ち続けていた。
「この人かな?いや違った」
その繰り返し、この人が女王様だと結構つらいところだよなとか勝手なことを考えているとそこにオートバイがやってきて、すぐに女性ライダーと気づいた。
オートバイの車種にはかなり詳しかったので、排気量まですぐに分かり、ソロでやってくるには結構な乗り手だなと思っていたところ、あっと声をあげそうになった。
それはヘルメットを取るのをみて確信に変わった。
女性はまだこちらには気づかず、こちらの乗ってきたオートバイをしげしげ見つめていた。
こんなタイミングでなければ、まあなんと懐かしいと話でも弾ませるところだが、待ち合わせ時間はもうすぐで、その場面を見られるのは、避けたかったので、海に向きなおり、さもリラックスしているように装っていた。
女性がヘルメットを片手にこちらに向かっているのをチラチラ見て、自分でも傍らにヘルメットを置いてたので、ライダー同士で軽くあいさつでもという流れを想像していた。
もうこうなったら、今日の待ち合わせはぶっちぎって、ライダー同士、しかも互いに面が割れているので、逃げることなどできないから、どうにもならないと割り切った。
後で女王様になんて言い訳するかは考えないといけないと思った。
ライディングブーツを履いた脚がすぐ脇で止まった。
「こんにちは。」
何度も聞いた懐かしい声だ。
さっと顔を上げ、
「あ、どうも。あれあれ、どうしたんですか、こんなところで。ずいぶんご無沙汰しておりました。」
「あら、誰かと思ったら、本当にお久しぶりですね。元気だった?」
「こんなところまでツーリングですか。」
「ちょっと待ち合わせ。」
「そうですか。」
「時々来ているの?」
「近いですからね。」
「待ち合わせ、何時だったかしら。」
「は?」
「とぼけないでよ。あなたも待ち合わせなんじゃないの。」
「えっ」
「彼女とは中学、高校の同級生なのよ。」
「彼女って?」
「とぼけてるじゃないわよ。」
「え、え、紹介してくださったS女性というのは志都子さんのことだったんですか。」
「今頃何言ってんのよ。それにS女性って何よ。失礼ね。」
出会いは驚きばかりだったが、これほど安心して身を任せられる女性はいないわけで、その日のうちに志都子さんの便器に成り下がり、大学が休みの間は学生アパートに早朝志都子さんがオートバイでやってきて、朝一番のお聖水を頂いたあと、食べることは許されず、口から顔面上に生み出された黄金をそのまま、手で触れることを許されずに放置され、夕方仕事の後に志都子さんがやってくるまで、耐えるという静かだけど結構つらいプレイを何度も施されていた。
「便器って言うより、便槽よね。」
そうかもしれない。
英語ならhuman septic tankかな、なんて思った。
便器はその時使われるだけだが、便槽はずっと受け止めたまま常に感じている、奈落のそこに置かれた絶望より無の世界を自分の居場所とする、もしかすると禅に通じるような透き通った感情が芽生えてきた。
そう、そう。
女性から便器に使われる時のm男の心情を書き連ねらねたものを見つけた。
「背中が床に根を張って、月に2度か3度の食事で生きて行けるようになる。 悲しみも、苦しみも、恐れもない。ただ便器として生きて行ける。 私のお尻を舐めながら生きていける」
「心の奥底に、モノになってしまいたいという欲望を隠している」
「これは人のやることではない」
「人の悦びではない」
後ろ3つは踏み台になっても、顔面座布団になっても同じかもしれないと思った。
志都子さんは、できるだけ自身の意識外に置くために排便中、高校時代の友人であるサトル君の話、クリニックの話からオートバイの話まで、独り言か、問わず語りみたいに言葉を発することが多かった。
志都子さんはおかずを作って容器ごと冷蔵庫に入れておいてくれることもあり、初めのうちはお聖水や黄金入りなのかと思ったが、ナース故か、プレイと実生活の区切りは明確で、苦学生には非常にありがたい、女神様のように映ることしばしばであった。
お聖水ペットボトルや黄金サンドイッチを持って、二人でツーリングしたこともあった。
経済的なこともあり、ホテルでプレイに及ぶことはなく、海か山か湖の畔で、最後は水浴びできれば、どんな厳しい便器調教にも耐えられた。
志都子さんはバツイチのまま再婚はせず、お子さんは小学生になり、実家から祖母が来た際にはこの街までやってきて、友人の女王様から手伝いを求められるそうで、いっそのことプロの女王様をした方が経済的にも良いのではないかと思われたが、女王様気質があるわけではなく、m男がもだえているのをみるのが楽しいだけとなかなか微妙な答えをしてくる辺りに自分の貢献度を推し量ってみたりして、自分は志都子さんにとってどんな存在なのか、段々と気になりだしていった。
「便器が欲しいものなんですか。」
「そんなもの要らないわ。便器なんかなくたって、用を足せるじゃない。」
「それもそうですね。」
「女の便器になることに意味づけが必要なのかしら?」
「自分の存在って何なんだろうと悩んできたところはあります。」
「あら、無生物になりたいんじゃないの?」
「でも、どこかでちょっとだけ意識してほしいものなんです。」
「それは当然よね。」
「便器になって嬉しいというより、便器を使うことに快感を持つ女性の姿をうれしく思う感じですか。」
「相変わらず、理屈っぽくて、回りくどいわね。」
「今の自分には、志都子さんの便器になるのに全然抵抗がなくなっているんです。そりゃ飲みにくいし、臭いし、色々大変なんですけど」
「臭いですって?」
笑顔の中きっと睨む表情が堪らなかった。
「ものすごく嬉しいんです。」
「変態だもんね。」
「志都子さんはトイレを使わないで、こんな事をしてくれて、楽しいんですか。」
「たのしいか、ね。楽しいわよ。だってコミュニケーションのとれるトイレって面白いじゃない。」
「志都子さんの便器に使われるのって、全然苦痛じゃないんです。初めはご褒美みたいに喜んでいたんですが、今では普通に使われて、まあそりゃ充実感はありますが、この先がないというか、ステップアップやバージョンアップがないと行き着く先はどこなんだろうって。また迷いに迷って、訳わかんなくなるんじゃないかって、不安で。」
「ほらほら、考えすぎなのよ、あなたは。こんな事してて行き着く先は生命の危機しかないんじゃない?」
「そうですよね。」
「そのギリギリの線を狙うのが好きなんじゃないの。」
「このまま命が終わったら、1つの完結型かなと思うことがあります。」
「そうかもしれないけど、女の排泄物に埋もれて、子供が死んだら、親は立つ瀬がないわよ。」
「それは、そのことはずっと悩んできたことです。どうしてm男なんなんだろうって。」
「愛情は形はさまざま、生き方もさまざま。勝ち負けなんかないわ。」
「m男が負けだと思ったことはありません。むしろ強くて良かったと思います。」
「面白いこというわね。」
「だって、女性のお尻の下に逃げ込むことができるんですから、どんな頑丈なシェルターより安全、安心です。」
「子宮に帰りたいのかな。」
「子宮より直腸でしょうか。」
「バカね。」
「女王様のお聖水と黄金だけでどれくらい生きられるのか、試したm男の報告はたくさんあります。一月は大丈夫なようですが、二月は無理で、入院したそうです。
「肝臓と腎臓がやばそうね。」
「そうですか。」
「だんだん身体が腐ってくるんじゃないかしら。多分。」
「恐ろしいです。」
「だから、ものには限度があるってことよ。そんなの当たり前じゃない。何だってそうよ。食べ物だって毎日同じのばかりじゃ身体壊しちゃうでしょ。」
「ということは。。。」
「考えてることが透けてみるわ。私が毎日違うものを食べていれば、大丈夫って思ってるでしょ。」
「ダメですかね。」
「タンパク質が絶対不足するって。」
「じゃあ、安全な頻度ってどれくらいでしょうか。」
「友人の管理栄養士に聞いてみようか。」
「その手の話したことないけど、誘ったら案外便器に使ってくれるかもしれないわね。」
「きれいな方なんですか。」
「選ぶ権利なんかないわよ。でも管理栄養士ってプロだから、体型とかバッチリよ。ほら、なんだかその気になってきたでしょ。素面じゃ聞けないから今度飲んだ時に尋ねてみるわ。」
一月程して、
「聞いてきてあげたわよ。感染のリスクがないなら、別に毒にならないと思うけど、脂肪とタンパク質が圧倒的に不足するって。でもね、あるビタミンは豊富らしいから、食べちゃダメってことはないらしいわ。良かったわね。男性患者から真顔で聞かれたから、答えを持ってかなきゃいけないのって、彼女に伝えたから。」
「すごく学問的に答えて下さったんですね。」
「彼女はね、その男性患者が自分のを食べてみたいと思ってるって受け取ったみたい。」
「あ、そうそう。黄金調教の初期段階に自分のに慣れることって、聞いたことがあります。」
「自分でやってみたの?」
「そういう趣味はありません。」
「じゃ、どういう趣味よ。」
「志都子さんの黄金を頂くことです。」
「ほかの女のも食べたくせに調子良いこといってんじゃないわよ。」
「仕方なかったんです。」
「所詮は便槽男ね。」
「志都子さんの便槽です。」
「今度その友達連れてきてみようかしら。」
「お願いしてみようかな。」
「そうね。どっちのか当てさせるのも面白そうね。はずしたら殺すわよ。」
「大丈夫かな、自信がないです。」
「あらあら、弱気になっちゃって。それじゃもう使ってあげないわよ。ほかにも私の便器になってる男はいるのよ。」
「たくさんですか。」
「まさか、人を何だと思っているのよ。もう一人だけよ。あなたも知っている人よ。」
「まさか、サトル君?」
「そんなわけないでしょ。この先もクリニック続けるんだから大切な王子様よ。」
「え、ということは。」
「そうよ、サトル君のパパ。驚いた?」
「いつからですか?」
「私結婚する前からだから、かなり昔の話よ。」
「どうして?」
「勤めだした頃から、私にいやらしい目を送っていたのを感じてたから、罠を仕掛けたらかかったのよ。」
「恐ろしい。」
「そうよ、女を怒らせないことね。」
「サトル君のパパってm男なんですか。」
「さあ、どうかしらね。あんまりそうは見えないわね。前にも言ったけど、私女王様じゃないから、わかんないのよ。」
「ええ、でもどうして。」
「私の外履きを手にしてるのを見つけて、問い詰めたらね。泣きそうな顔して、黙ってて欲しいって。だから、私のハイヒールで何してたか再現させて、写真撮ったのよ。」
「怖いです。」
「お金でっていったから、怒ったのよ。どうしたら良いのか自分で考えろっていったの。そうしたらね、おかしいのよ。奴隷になりますっていうのよ。」
「いきなりですか。」
「奴隷って、何するんですか?って尋ねたら、何でも言うことを聞きますといったわよ。」
「じゃ、ビルから飛び降りろ、とか?」
「でしょ、そうなるわよね。自分で言っておいて、ふるえてたわ。一杯稼がないと私の給料も出なくなるじゃない。だから、何でもって言ったって、分かるわよね。その辺がずるいのよ。」
「こっちまでふるえてきます。」
「それでね、私が親しい友達に相談したら、そうなったのよ。」
「そうなったって、〇〇女王様ですか。」
「そうよ。その手の相談なら彼女しかいないじゃない。」
「地獄の展開が待っていそうですね。」
「天国よ、極上の天国よ。二人で彼女を訪ねてね、私は二人のプレイを眺めていたわ。あれくらい悲鳴を上げる男も少ないわね。ハイヒールって遊びじゃないのよ。鞭もそうね。本気で打ったら皮が裂けちゃうわ。ボロボロになったところで、私がね、お聖水と黄金を全部与えたのよ。」
「いきなり全部ですか。」
「当たり前じゃない。」
大学を卒業して、上京するまで、志都子さんと管理栄養士の友人の便器として、〇〇女王様の厳しい調教に耐えて、生き延びました。