「あれは私か」
衝撃は続きます。
昨日は洞窟に入っていく夢を見ました。
閉所恐怖感が強いので、進んで洞窟に入ることはありませんし、鍾乳洞見物もなんとなく逃げ道をつねに考えながら行くので楽しめなかったりします。
子供の頃、多分6歳の頃の思い出ですが、何のためだったか、堆肥を作るためかなにか、裏の畑に2メートル四方くらいの深さは1.5メートルくらいの穴が掘られていました。
私はなんとなく、穴が掘られていくの楽しみで、できあがると何かに使われるまでの間、隠れ家に使っていました。
物置に葦のすだれがあったので、穴に入ってから、それで覆ってみたことがありました。
隠れ家にはちょうど良いのですが、大人からみたら、そこに私が入っているのは一目瞭然で、変な子供と思っていたことでしょう。
夜になると底にわらを敷き詰めて、横になって、空をみていました。
田舎だったので、たくさんの星が見えて、そのままそこで眠りたいくらい居心地が良かったのを覚えています。
段々、おもちゃや双眼鏡や水筒まで持ち込むようになり、穴に住むかと冗談を言われました。
そこの居心地が良かったのはもう一つあって、穴の蓋が葦のスクリーンじゃなくて、ちゃんとした板張りになっていて、自分がそこに閉じ込められたらどんな感じかなと思っていました。
もっと深い、暗い穴で、脱出不可能だったりして、そこに居ることに誰も気づいてくれなかったりして、ひとりぼっちで進退窮まっている状態はどんな気分なのだろうかと。
昼間はすだれをかけていても木漏れ日が差し込んできて、とても気分が良いですし、風も適度に吹き込んできますから、窒息の恐怖などありません。
毒ガスがそこに貯まってきて、追い詰められたらどうしようなんて、あり得ない状況を空想してもみました。
夜は青天井で、星を眺めるからいいですが、昼は木漏れ日も入らないように板で塞いでしまいたい感覚に捕らわれました。
暗いところや狭いところが苦手だったのにかえってその環境に身を置いてみたい、恐怖心の克服を目指したのかもしれません。
コンパネが物置に数枚立てかけてあったので、二枚を引っ張り出して、ひとつずつ持っていきました。
穴を囲うには二枚で十分です。
親に叱られるかと思いましたが、隠れ家が欲しいのは理解できると言われたんだったか、まあ家の敷地内で遊ぶだけなので、密閉しなければ良いということになった記憶があります。
蓋を合わせると穴の中は真っ暗で、正に囚われの身ですが、別に自分で板をずらしたらいいことなので恐怖感などありませんでした。
隙間を空けて、空を見上げるとアレを思いました。
「板に便器がはめ込まれていたら、ここは便槽か。」
何でそんな思考に流れるのかは自分でも不思議でしたが、そう思うとなんとなく居心地が良くなってきました。
「そうだ、楕円形にくりぬいてみようか。」
実際にそんなことをしたら、コンパネが使えなくなりますし、糸鋸を使いこなすことなどできるはずもなく、それにもしそんな穴を作ったら、なんとなく、それが何に似ているかは分かりそうなもので、実行不可能ということで。
「そこに楕円形の穴が空いていたら、ついでにそこに和式便器がはまっていたら、今の居場所は間違いなく便槽だよな。」
「便器の穴から出入りするのも楽しそうだな。」
畑の隅に真っ白な便器が設置されていたらさぞ奇怪だったことでしょう。
もちろん空想の世界です。
空想は妄想に発展していきます。
スリット状の光の差すのが楕円形で、便器がはまっていたら。
便器には蓋があります。
人の近づく気配がします。
コツコツと硬質の足音がします。
「おやおや、ここで足音が止まったぞ。」
「蓋が開けられ、近くに置かれた音がします。
穴の中で隅に隠れるようにして見上げています。
「誰だろうか。」
「あ、赤いハイヒールだ。」
あの友達のお母さんです。
4歳の頃に記憶が戻ります。
見つかったら大変なことになるけど、じっとしてはいられません。
赤いハイヒールの女性がグッとお尻を落としてくるのがみえます。
吸い付きたい。
でも吸い付いたら、そこで終わってしまうだろうから、その時を待ってみよう。
穴の真下に寝ていたら、顔に落ちでくるのかな。
そんなことを考えていたら、親が夕食ができたと呼びにきました。
「便槽から愛を込めて」
こんな感じです。
昭和の時代に「黄金幽谷}というm小説を読んだ際に洞穴に閉じ込められた少年が頭上にぽっかり空いた楕円形の穴を見上げたら、美貌の女性がしゃがみ込んで、「おなか空いたでしょう」と優しい声がかかり、厠奴化した話で、あの畑の穴で過ごした事を思い出しました。
そんなことを思い出しているとあの日の夢、パートナーがドラム缶の上に置かれた男の顔に素尻で騎乗していた、あの男とは自分自身じゃないのかと考えたのです。
自分を見つめる自分がいるというのは、いよいよ精神がバラバラになってきたのかもしれませんが、幽体離脱かなにかしりませんが、冷静に事態を見守るもう一人の自分だった気がします。
そう思えば、すべては治まります。
ざわついた心も鎮まります。
ついでに使い古され、あちこち潰れて、さびが浮いたドラム缶は中に自分が入っていて、「便槽から愛を込めて」なんじゃないかと。
そう解釈すると甘美な思いに浸れます。
勝手に混乱し、自主的に収束させて、人騒がせです。
パートナーは内容はご存じないにしても私が心を乱していたことはもちろん気づいているので、向こうで心配しているかもしれません。
すぐにでも言って全部お話したいところですが、新千歳空港は記録以来の大雪で欠航が多発し、JRも止まっているようですし、札幌に駆けつけても大雪で大変なことでしょう。
ここは九州にとどまって、札幌周辺の混乱が収まるのを待ちましょう。