豆腐さんは編集の偉い人 で、でもガリ勉の頭でっかち&プライド高めな コミュ症キョロキョロ
玉子さんは営業の偉い人で発想豊か! でも発言した後は人任せグラサン
こんな 2人のこじらせおじさんを中心に描かれる リアルな出版社の日常びっくりマーク

 

第3話 営業は夢を売り、編集は現実を見る

水曜日、午前8時59分。

 

営業部のドアが勢いよく開いた。

 

玉子(営業)「みんなーー!!」

 

来た。全員が時計を見る。

 

いつもの時間だ。

玉子(営業)「昨日、すごいこと思いついた!」

 

誰も返事をしない。

営業部には暗黙のルールがある。

まず最後まで聞く。

途中で質問すると話が三倍長くなるからだ。。。

 

玉子営業部長はホワイトボードに大きく書いた。

目標 100万部。

 

営業部が固まる。

新人営業の高橋さんがおそるおそる聞く。

 

営業新人佐藤「……何の本ですか?」

玉子(営業)「まだ決めてない!」

 

営業部全員がうつむいた。。。


その頃、編集部。

 

編集部長の豆腐さんは昨日の会議資料を修正していた。

三十六ページだった資料は、気づけば四十二ページになっている。

新人編集の佐藤くんが勇気を出して聞いた。

 

編集新人佐藤「豆腐さん……。」

豆腐(編集)「はい。」

新人佐藤「資料って……減ることはあるんですか?」

 

豆腐編集部長さんは少し考えた。

豆腐(編集)「あります。」

 

新人佐藤「本当に?」

豆腐(編集)「去年、一度だけ。」

新人佐藤「何ページになったんですか?」

豆腐(編集)「三十六から三十五です。」

 

佐藤くんは心の中で思った。

誤差だろそれ。。。。


 

午前十時。

 

営業部と編集部の合同会議。

営業部長の玉子さんが胸を張る。

 

玉子営業部長「発表します!」

 

編集部長の豆腐さんは静かにメガネを直した。

嫌な予感しかしない。

 

玉子(営業)「今年中に!」

 

一拍置く。

 

玉子(営業)「100万部売ります!」

 

沈黙。

経理部長が電卓を打つ音だけが響く。

編集部の誰かが小さくつぶやく。

 

「何を?」

 

玉子さんは笑顔で答えた。

玉子(営業)「これから決める!」


 

豆腐編集部長が立ち上がった。

 

豆腐(編集)「質問です。」

玉子(営業)「どうぞ!」

豆腐(編集)「市場調査は?」

玉子(営業)「してない!」

豆腐(編集)「販売計画は?」

玉子(営業)「ない!」

豆腐(編集)「著者は?」

玉子(営業)「探そう!」

豆腐(編集)「企画書は?」

玉子(営業)「今から!」

 

営業部から拍手。

編集部からため息。

新人はどちらに合わせればいいのか分からない。


 

今度は豆腐編集部長の番

 

豆腐(編集)「では。」

編集部長の豆腐さんはスクリーンを映した。

 

タイトルは、『100万部達成に必要な条件』

 

全部で五十七ページ。

玉子さんが苦笑いする。

 

営業「増えてるじゃん。」

豆腐(編集)「昨夜、補足しました。」

営業「補足ってレベル?」

豆腐(編集)「簡潔にまとめました。」

 

営業部全員が心の中で叫ぶ。

どこがだ!!!!!!

 


説明が始まる。

 

豆腐(編集)「まず、100万部を売るには。」

玉子(営業)「うん。」

 

豆腐(編集)「著者。」

玉子(営業)「そうだね。」

 

豆腐(編集)「内容。」

玉子(営業)「うん。」

 

豆腐(編集)「デザイン。」

玉子(営業)「うん。」

 

豆腐(編集)「宣伝。」

玉子(営業)「うん。」

 

豆腐(編集)「営業。」

玉子(営業)「うん。」


豆腐(編集)「読者。」

玉子(営業)「それはそう。」


豆腐(編集)「運。」

玉子(営業)「……運?」

 

豆腐さんは真顔だった。

豆腐(編集)「最後は運です。」

 

玉子さんが笑い出す。

玉子(営業)「運も資料に載せる人、初めて見た。」

 

編集部も少しだけ笑った。


会議が終わる頃。

 

新人営業・高橋さんがつぶやく。

「結局、100万部って無理なんですか?」

 

玉子さんは首を横に振る。

玉子(営業)「無理じゃない。」

 

豆腐さんも珍しく続けた。

豆腐(編集)「簡単ではない、です。」

 

二人が同時に話す。

豆腐(編集)「でも。」

玉子(営業)「でも。」

 

顔を見合わせる。

豆腐&玉子「面白い本なら可能性はある。」

 

会議室が静かになった。

 

新人たちは初めて見た。

この二人の意見が一致する瞬間を。


夕方。

 

部に一本の電話。

営業「大型書店さんが、新刊フェアをやってくれるそうです!」

 

営業部が歓声を上げる。

玉子さんはガッツポーズ。

 

玉子(営業)「ほら!」

豆腐(編集)「何がですか?」

玉子(営業)「夢を語ると、人は集まる!」

 

その横で豆腐さんが静かに言った。

豆腐(編集)「準備期間は?」

 

営業部が固まる。

 

玉子(営業)「……三日です。」

豆腐(編集)「足りません。」

玉子(営業)「どうする?」

 

玉子さんはニヤッと笑う。

玉子(営業)「みんな、よろしく!」

 

営業部全員。

「また丸投げだーー!」

 

笑い声がフロア中に響いた。

 


夜。

 

新人・佐藤くんは帰り際、先輩に聞いた。

新人佐藤「豆腐さんと玉子さんって、仲悪いですよね?」

 

先輩は少し笑って答えた。

 

先輩「本人たちはそう思ってる。」

新人佐藤「でも?」

先輩「今日、二人とも同じこと言ってただろ。」

   『面白い本なら可能性はある。』

   「あれが、この会社の答えなんだ。」

佐藤くんは少しだけ、この出版社が好きになった。

 


今日も出版社は平和だった。

ただし、「100万部」という言葉だけは、一人歩きしていた。


【編集後記】

出版の世界では、「売れる本」を狙って作ることはできます。

でも、「愛される本」は狙って作れるものではありません。

だから今日も、編集者と営業は本気でぶつかり合いながら、一冊の本を読者へ届けようとしています。

― 第4話「新人編集者、心が折れる」へ続く。