Moring (秋田 Akita)

 

起床

 起きてすぐ顔を洗い、タオルを持って浴場へ向かう。起きてすぐにホテルの廊下へ出たけどまだ脳が起きてなくて、頭の中がもや〜とした気分。浴場に着くとスリッパが2、3組すでに並んでいた。寝ている間にかいた汗をシャワーで流し、露天行きのドアを開けると、冬を感じさせる寒さが体に吹きつけ一瞬で冷えた。湯船につけた爪先から電気が流れるように体がしびれる。昨日はぼんやりとしかわからなかったこの乳頭温泉特有の濁った白いお湯も、今ならその色がはっきりとわかる。ミルクのような白いお湯に体が包み込まれながら、夜とはまた変わった景色に癒される。見上げた先に長くそびえ立っているブナの木々の隙間から差し込む朝日は、昨日の夜空に浮かんだ何万もの星の光とさほど変わらないほど眩しかった。まるで朝の星のようで。

 

朝の散歩

 昨日は夜の散歩では素晴らしいものを目に収めることができたから、朝の散歩にももちろん参加することにした。集合場所に集まっているのは私と2、3回り年上の方が10人ほどだった。従業員の方がそそくさと林の方へ突き進む。一瞬入るをためらってしまうのは、森の中を突き進むのは抵抗を感じてしまうからだ。1週間前に登山した際、足首がぶよにさされ、草むらには敏感になってしまう。しかし林に一歩踏む入れた瞬間、足元の土が湿っているのと、少しも蒸し蒸しした暑さが感じられない風通りの良さ、ひんやりとした気候に気持ちよさを感じた。こんなにもマイナスイオンを感じさせるのはきっと、私を囲んでいる木々が全部、ブナの木だからかもしれない。「ブナはたくさんの水分を必要とします。そして吸収した水分を体内に溜め込み、冬にはそれが凍ります。凍ると、その重さに耐えきれなくなり『凍裂』という現象が起こって、真ん中に裂け目ができるのです。」確かにブナの木は高さはあるものの竹のようにまっすぐ伸びていない。ぐねっと曲がったり、一つの大きな幹から分かれている形をしたのもある。すべての形に意味があるらしい。一歩一歩進むたびに正面からの風を受けているのは私だけではなく、ブナの黄緑色の葉も揺らさている。いや探検隊じゃないんだから、とツッコミたくなるほどの草むらも突き進むと(というか突き進むしかなかった。)その先には透明な水が溜まった、さほど大きくない池が待っていた。この池がどうも神秘的に感じ、カメラを用意しようとすると、服が濡れていることに気づく。グレーのスウェットには濡れて濃くなった染みが点々とついている。さっき草むらを通っているときに、朝露で両サイドの木々が雨上がりのように濡れていたことを思い出した。せめて黒のスウェットにしたらよかった、と思っていたら「皆さんには、餌やりをしていただきます。」と言われ、池を見ると魚がいるのがわかった。太陽に反射してさっきは気付かなかったが、よく見たら何匹もの魚が泳いでいた。すべてはいわな。臭いが少しキツめな餌を手に乗せ、パラパラと落とす。ほとんどのイワナは初めに餌を投げた人の方へ集まっていて、私が投げた先には一匹もいなかった。「あの、この餌結構臭いがきついと思うんですけど、手に残ります。しっかり洗ってくださいね。」私の餌はゆらゆらと池の底へ沈んでいく。手、臭くなっただけじゃん、、。

 

ブナの実

 

森の中

 

イワナの泳ぐ池

 

Afternoon (山形 Yamagata)

 

鶴岡駅 到着

鶴岡駅に着き、早速到道博物館へ向かう。行くまでの道で、最近テレビでよく見るあの張り紙を見つけた。関東からの来客拒否だ。東京に感染者が多いのは確かだが、それと同時に感染していない人が多くいるのも事実である。関東在住だからという理由で拒否されるのは快く思わないが、一概に責めることはできない。今年の3月ハワイから東京便の飛行機に乗るため空港にいたときであった。私の近くに中国人観光客がいた。彼らが中国人だと分かった瞬間、私はマスクをつけた。まるで彼らがウイルスを持っているかのように。当時はコロナウイルスが武漢で発生し、まだ日本にはそこまで浸透していなかったため、コロナウイルス=中国のイメージが強くあった。あんなに広い面積を持っている中国だから、もちろん感染していない人だって多くいるはずなのに。先入観が邪魔をして一人一人を見れなくなることが差別につながってしまうというのに、それを止めるのは本当に難しいし、人間の恥だ。だからこの張り紙を貼ってる店の方々の気持ちが痛いほどわかるし、「それはいけない」という一言も発する勇気がない。そんな思いで歩いていると、少し先に八百屋さんがあるのが見えた。こんなにも暑い中、ドアもない無人店のようなところだが、お婆さんが腰を曲げながら野菜を並べている。横を通ると私を見たお婆さんが「こんにちは」と声をかけてくれた。ちょっと前まで差別されたような気分で落ち込んでいたのに、お婆さんの一言で私は一瞬で元気がでた。蔑視されないことがどんなに素敵なことか、私はこの街のたった10分間の出来事で思い知った。その後は、昔の店がそのまま残されたような街並みを楽しみながら目的地へ向かった。

 

鶴岡駅

 

 到道博物館に着いた時にはすでに15時であった。ここまで歩いて30分以上かかったことを思い出し、16:30の電車に乗れるかどうか一瞬ひやっとする。荷物は預けて早歩きで一周回ることにしたが、早速最初に目に入った建物に見惚れてしまった。綺麗なブルーの色、これが警察署だなんて思えなかった。

 博物館を後にし、庄内藩校到道館、大鳳館、カトリック教会の前を横目に駅へ向かう。どんなに早く行きたくても10kgくらいの荷物を背負った状態だと限度がある。後ろから誰かに引っ張られているように足が進まない。携帯のマップを右手に、駅までの青色のルートをなぞるようにして歩く。まだかまだかと思いながら、1分に1度のペースで携帯をチェックする。ここで道に迷ったりしたら確実に電車を逃す。ふと顔をあげると駅前のあったアパホテルの高いビルが見えた。周りにビルがないおかげで一層際立っている。ずっとマップをみて歩いてたから全く気づかなかった。あれを目印に歩いてきたらよかったのか。

 

到道博物館①

 

到道博物館②

 

電車

 余裕で電車に間に合った。電車一本のために、これだけ時間厳守に行動したことはあっただろうか、今まで。逃してもすぐに次がある都会、ときには乗客1人しか乗っていないバス、無駄遣いが多いのでないだろうか、と考え込んでしまった。向かいの席に座っている体操着を着てスポーツシューズを履いた子の子たちはおそらく中学生だろう。鶴岡から乗って、まだ乗っている。鶴岡公園の隣にあった中学校に通ってるのならば、すごい登下校距離だ。駅から徒歩20はかかるだろうし、もしこの子たちが酒田で降りれば電車で30分以上ゆられることになる。小学校を卒業しどこの中学校に進学するかを決める手段は二つ、お受験で私立中学か地区分けで決められた公立中学。私は徒歩30分で行ける近場の中学校に進学したが、この子たちはどうなっているんだろう。お受験しない場合は、隣の町の中学校に電車で長い時間かけて登校。もしも一本電車に乗り遅れたら2時間目にも間に合わないだろう。

 

酒田駅 到着

 18:00までには山居倉庫に行きたかったのでタクシーを乗ることにした。タクシーに近寄る私に気づくとすぐにドアを開けて「どうぞ」と微笑んでくれた。山居倉庫までと伝える。案の定、お客さんどこから?と聞かれた。「神奈川です、今東北一周してるんです」と言うと、運転手さんは仕事上車であちこちへ行ったことがあるらしく、色んな場所の話をした。今回の旅で東北の地名をたくさん覚えたから、話が弾んで楽しい。続けておじさんが言った、「でもなあ、女の子1人って気をつけなきゃだめだよ。たまに脳にガソリン入ったおかしな男もいるからよ。おじさんがお嬢さんくらいの歳の娘がいる父親だったら、誰かと一緒に行けって言うなあ。」心配してくれる有り難さと父を侮辱されたような気でごちゃごちゃだ。まず変な男の人を脳にガソリンが入った男という表現に引っ掛かった。酒が抜けてない男ということだろうか?世の中には表現の仕方があ増えれている。まあそんなことより、女だからという理由で「気をつけて」「だめ」「やめなさい」という教訓には反対だ。一人旅でもなんでも、私にチャレンジさせてくれる両親が私の両親で良かったと、心底思う。申し訳ないが、こういうおじさんの娘になるのはこっちからごめんだ。安全な場所に引きこもっていると、もちろん危険なことに遭遇することは少ないだろう。しかし、危険に遭遇するから人には判断力がつくのではないだろうか。あれは危険だ、これは安全、とか。判断力がないことが私は一番危険だと思っている。そのような人生において大事な判断力を女の子に養わそうとしない考えは、間違っている。その後もずっと話しかけてくれる運転手さんだったからあっという間だった。680円か、と思った瞬間に最後の最後で200円ぐんと上がる。時間がある場合は目的地に着く前で降りる方が賢いかもしれない、と思いながらお金を払って外に出た。

 

 山居倉庫の中を入ったり外の回りをぐるぐる歩いた。日が沈んでからライトアップが始まるらしいがふとさっきの運転手さんの言葉を思い出した。「脳みそにガソリンの入った男」酔っぱらった男、よりもなんだかインパクトがあるこの言い回しがどうも頭から消えない。最近ここで事件でもあったのだろうか?いろいろ考えた末、ライトアップまでここでじっと待つことはやめて、真っ暗になるまでにはホテルに向かうことにした。しかしまだ暗くなるまでには時間はあるから。もう一つ行きたかった酒田湾のほうへ向かった。もちろん市場はすでに終わっているが、ただここ酒田は山形唯一の港町だから、その場を目に収めたかった。海洋センターを通って港にでた瞬間、「とびまる」と書いた船と、オレンジ色に輝く夕陽が目に入った。思わず、わあと声が漏れた。また絶景と出会ってしまった。

 

山居倉庫

 

酒田湾

 

ホテル 

 お腹が空いた。ホテルへ向かう道にどこかしら食べるところはあるだろうと思ったが嫌がらせのように全てがしまっている。空いているのは居酒屋だけだ。居酒屋のつまみというよりは、もっとがっつりしたものが食べたい。何だったら牛丼屋とかでもいい。いつ肩の骨が砕けてもおかしくないほど肩が痛くなってくる。早く食べたい。ホテルに行きたい。結局先に現れたのはホテルだった。もうコンビニで買って持ち込もうかと考えたが、どうも気が進まない。ホテルの一階に居酒屋が入っている、もうここしかない。個室に案内されると、テレビがついていた。1人で居酒屋に入るのは生まれて初めてだったが、優雅に長居できるしなかなか気に入った。あ~今日は昨日みたいな露天風呂には入れないな、と部屋までとぼとぼチェックインするためのロビーへ向かう。