若いころ、外で鍋料理を食べたことがなかった。

両親が家で作る鍋しか知らず、鍋のダシと言えば、水に昆布をしいて酒を入れることしか知らなかった。

 

大学は東京で、一人で住んでいた時のことだ。

その頃から両親の真似事で、湯豆腐などの鍋料理は、たまに自宅でしていたかもしれない。

 

 

親から仕送りをしてもらっていたが、アルバイトもしていたので、そこそこ優雅な学生時代を送っていた方だろう。

同じ大学の学生が、同じアルバイト先で一緒になることも多かった。

なぜなら、みんな出来るだけ条件の良い所を見つけたいので、学生同士で情報交換をするからだ。

 

とあるアルバイトからの帰りで、先輩の一人と帰路が同じになった事がある。

寒い夜で、何か食べて帰ろうということになった。

 

神戸の人で、かなりのボンボンの様だった。

彼は肩まで伸びた長い髪の毛を、女の子が手入れしたかの様に綺麗に揃えていたし、服装も小ぎれいでオシャレな感じの男性だった。

寒い時には鍋に限るということで、彼の知っている店に入った。

 

先輩と後輩の関係は尊重されていたので、彼におまかせという風に進んだ。

石狩鍋がうまいという。

鮭の入った鍋を頂くのは初めてだったので、少々気持ちが高揚したが、それに異存はなかった。

 

土鍋には通常のダシが入っているのだが、土鍋のふちには味噌がぐるりと一周塗り付けてあった。

うろ覚えだが、ダシ昆布が入っていたと思う。

 

当時は今の様に情報網が発達していなかったので、インターネットとスマホで疑似体験を即座にすることは出来ない。

何のことか分からないまま、鍋の調理が始まった。

 

先輩は、ふちに付いている味噌をダシに溶きながら、普通に鍋を調理する手順で調理してくれた。

そのうまさと楽しさは、今でも忘れることは出来ない。

 

さて、時は過ぎ、自分の家族を持つようになって、鮭の入手しやすい所に住むことになった。

六人家族で鮭のぶつ切りをポンポン鍋に放り込む。かなり豪快な感じだ。

 

 

鮭を一匹丸ごと買ってきて、うろこを取ってさばいて、ぶつ切りにするのだ。

その頃次女は、十歳そこそこだったが、鮭のうろこ取りを手伝っていたので、どうやって魚のうろこをはぎ取るかを覚えただろう。

 

 

鮭はかなり高級な魚だと思うが、住んだ所では、手が出ない程高価な魚でもないので、鍋の材料に頻繁に使ったし、今でも使う。

残ったら味噌漬けなどにして冷蔵庫で保存したものだ。

 

 

問題は、土鍋を持ち合わせていないことだ。

土鍋なら、ふちに味噌をぐるりと巻くように塗り付けることができるが、普通の鍋ではほぼほぼ不可能であろう。

 

 

普通の鍋で数回試したが、うまく行かない。

味噌をそのまま入れるのでは、ふちにある味噌をゆっくり崩して溶きながら入れて行くほどの楽しみにはならない。

 

 

 

いつしか、鮭を材料として使うけれど、味噌を入れない普通の鍋料理になってしまった。

石狩鍋ではないが、鮭の鍋ということで、今でも十分楽しんでいる。

 

 

 

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