題は、母親とカニではなく、自分とカニかも知れない。
母親が、冷凍でカニを買っておいてくれたことがある。
「買っておいたよ。(お前さんは)カニが好きだからね。」
否定はしないものの、母親が覚えていてくれるほど好きだったかな、と少しばかり疑念を抱いた。
思い起こすに、確かに、筆者は幼少のころからカニが好きだった。
食材としてのカニという意味ではなく、子供として、カニ自体が好きだったのだ。
どうやら母親は、息子はカニという生き物が好きだ、という記憶と、食べるカニとして好きだ、という記憶とを混同してしまっていたらしい。
さるカニ合戦の童話が好きだった。
考えてみれば、海に行くとカニばかり探していた。
その昔、幼稚園に持って行くカバンは、母親が作ってくれた。
布製で、それにもカニの模様を頼んだので、カニの刺しゅうを施してくれた。
生活団という一風変わった幼稚園で、4~5歳でも、電車やバスを使って、子供たちだけで通園させるという試みもあった。
自立心を養わせるという目的だったと聞くが、当時、誘拐も少なかったのだろう。
実は、その帰りに、筆者は誘拐されかけたことがある。
とある男に肩車で連れ去られかけた。
幸い、母親と叔母が一緒に居た帰りだったので、事なきを得た。
「いったいどこに行ったのか」ということで、追いかけてきた。
筆者は何が起こっているのか、その当時には分からなかった。
肩車をされて上から見る、母親と叔母が追いかけてくる光景は、今でもハッキリと目に浮かぶ。
茹でガニは、自宅でも比較的頻繁に頂いていた記憶がある。
何度も酢醤油で食べていた。
食材としては、何が好きといって、あのいちいちほじくり返したり、殻を割ったりして食べるという行為が好きだったのだと思う。
子供にとっては、遊びの一種なのだ。
実は、それは今も変わっていない。
さて、冒頭に書いた冷凍のカニだが、その行方がどうなったかを書かざるをえまい。
カニスキにして食べた。
驚くなかれ、初めてのカニスキだ。
壮年になるまでカニスキを食べたことがなかったのだ。
カニとは、こんなにうまいものだったかと思った。
特別な夕食を、母親と共にした思い出になった。
カニスキは、ダシを整えてから鍋を始める。
このダシ、実は、他のなべ物に使うと、めっぽううまい。
このカニスキをして以来、他のなべのダシにも使うようになった。
こんぶでだしを取り、そこに酒を入れるところまでは同じなのだが、そこに醤油を加える。
みりんを加える方もいらっしゃるだろう。
鶏鍋、肉団子の鍋、湯豆腐など、どれにでも合う。
特に湯豆腐は、絹ごし豆腐でやると、湯豆腐ってこんなにうまかったか、というほどうまくなる。
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