筆者は、チーズが苦手だった。
一方、母親は大のチーズ好きで、いつもトーストと一緒に食べていた。
母親は、トーストとチーズにレモンティーがあれば、幸せだった。
カマンベールの様なクリーミーなチーズやブルーチーズ等ではなく、チェダーチーズ系が好きだった。
ある程度噛み応えがあって、噛むと口の中で歯にまとわりつく感じのチーズを、5ミリ~1センチぐらいにスライスして食べていた。
とは言え、当時日本はプロセスチーズが主流で、6Pチーズとか、雪印チーズが多かった様に記憶している。
時々スモークチーズも食卓に出ていた。
これは筆者もかなり好きで、独り占めにしていた様な気がする。
幸い、兄貴が燻製系の匂いと味が苦手だったからだ。
さて、25歳から渡欧したのだが、ヨーロッパに来て、チーズに対する概念が180度変わったのだ。
まずはイタリアだった。
どのチーズを食べても、日本のチーズとは桁違いにうまい。
ゴルゴンゾーラ、パルメザンチーズ(粉ではなくかけら)、モッツアレラチーズ、アジアーゴ等、これがチーズなんだ、と連日驚愕の連続だった。
チーズ開眼だ。
そうこうしている内に、スペイン、ドイツ、オランダ、フランスのチーズを試す機会も増えてきた。
どれもこれも確かにおいしい。味も食感も様々だ。
えーっ?といったチーズは存在しないのだ。
さて、フランスはブルゴーニュ地方を何度も訪れている。
ワインならロマネコンティで有名な地方だ。白ならシャブリか。
そこで、これ以上のチーズは未だかつて出会ったことがない、というほど強烈なチーズに出会った。
最初は、あまりの芳香に拒絶反応さえ起こしたが、慣れればなれるほど、病みつきになっていった。
その名をエポワスと言う。
常温にしてフランスパンに塗付ける様にして食べる。
ブルゴーニュの赤ワインでもあれば、この世のものかと思われるぐらいの味と香りなのである。
常々エポワスが入手できるわけもないので、似たようなウォッシュタイプという組み分けのチーズを楽しんでいる。
日本で有名なウォッシュタイプはモンドール、金の山と言われるチーズだ。
他にも、マンステール、フルール・ド・ビエールなど色々あるが、どれも似た傾向の味わいだ。
しかし、ウォッシュタイプでは、やはりエポワスが断トツであろう。