
今月17日、中国の李克強首相が就任後に初めて開いた記者会見で、彼の率いる新政府の行く末を案じさせるような際どい場面があった。国営新華通信社の記者が李首相の唱える「都市化政策」について質問したときである。
過去10年間、前任の温家宝首相の施政下で中国経済は高度成長を継続していたものの、その末期においては成長の勢いが完全に失われた。2012年の成長率が13年ぶりに8%台を割ったことや、同じ12年において中国の大手鉄鋼メーカー80社の平均利益が前年度比で98%減となったことなどが、中国経済の凋落(ちょうらく)ぶりを如実に語っている。紙幣の乱発によって支えられた公共事業投資の拡大で成長を引っ張っていく「温家宝式」の成長戦略は確実にその終焉(しゅうえん)を迎えたのである。
こうした中で李氏が自前の成長戦略として打ち出したのは「都市化政策」である。農村部の一部を「都市化」することによってインフラ整備や不動産投資への需要を創出し経済成長の新たな原動力にしていくというもくろみだ。
たとえば李氏は去年の7月中旬に副首相として地方視察を行った際、「内需拡大の最大の潜在力は都市化にある」と語っているが、それが「都市化政策」の狙いを端的に示している。
昨年11月28日、李氏と北京訪問中のアジア銀行総裁との会談においても、総裁から中国今後の経済成長の見通しを聞かれたとき、彼はやはり、「未来数十年の潜在的成長力は都市化だ」と胸を張ってみせた
だが、この政策が打ち出された当時から国内ではさまざまな批判が上がってきた。インフラ投資の拡大で成長を牽引(けんいん)していく発想は今までの成長戦略の単なるコピーではないのか、人為的な都市化の推進は結局不動産バブルのさらなる膨張を助長することになるのではないか、等々である。
昨年来、都市一つ丸ごと新造されていても誰も住まないという「鬼城(ゴーストタウン)現象」が全国的に広がったことや、既存都市の存続自体を脅かす大気汚染がより深刻化したことなど、いわば「都市化政策」に冷や水を浴びせるような出来事が続出した。李氏の「新成長戦略」は実施される前から早くも行き詰まりの様相を呈した。
そして、冒頭に記した件の記者会見では、質問に立った新華社記者は何と、「社会の一部での議論」を代弁するような形で「都市化はもともと近代化の自然の結果であって、わざわざ推進するものではないのではないか」と、李首相肝いりの「都市化政策」に真っ正面からの疑問を呈した。
新首相のメンツすら一顧だにしない厳しい「質問」が、政府主催の記者会見において国営通信社の記者の口から出されたことは、現代中国の政治史上前代未聞の大珍事である。李首相自身の政治的権威の欠如と、彼の「都市化政策」に対する体制内批判の高まりがその背後にあるのだ。
そして、この質問に対する答えの中で、李首相の口からは「内需拡大の最大の潜在力」うんぬんという自信満々の言葉がついに出ることはなかった。彼は結局、「人々の幸福のために」とかの抽象的な表現を使って記者からの疑問をかわすのに精いっぱいだった。
このようにして、中国の新首相はその「成長戦略」のつまずきとともに出足から迷走した。今後5年あるいは10年、彼は一体どうやってこの国の経済を運営していくのか。そして政権にとっての生命線である経済の持続的成長は一体どうやって達成できるのだろうか。船出したばかりの李克強政府と中国経済の今後は前途多難である。
【プロフィル】石平
せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。