青山のキラー通り。 梅雨が明ける間近、天気雨が強く降っている夕方。 雨は降り続いているのに、水色の部分があちらこちらに見えて明るさのある空。
お昼の少し前、小雨降る千駄ヶ谷から青山三丁目に車で抜けた。
以前この辺りで仕事をしていた時に比べて、大きく変わった街を見入りながら。
そして、その頃に出会った出来事を思い起こした。
青山のキラー通り。
梅雨が明ける間近、天気雨が強く降っている夕方。
雨は降り続いているのに、水色の部分があちらこちらに見えて明るさのある空。
近くのデザイン事務所から帰る途中、傘をさして歩いていると。
30mくらい先に、傘をささずにポツポツと歩いている女性に気がついた。
そのまま10m近くに近づいた私は、気になって追い越さず彼女の歩くペースに合わせていた。
近づいてみると、服は雨にまつわるように濡れて、長めの髪から雫が落ちている。
傘を持っていないし、バッグも持っていない。
私は、その微妙な姿に興味をもったと言うわけではなく、純粋に「どうしたのだろうか。」「大丈夫かな。」という心配心を持ったのです。
2、3分の間、歩調を合わせて歩いていたと思う。どうしようかという気持ちで。
青山通りに近づいて来た時、私は歩調を早め彼女のところまで進むと、彼女に傘を差し向けて。
「大丈夫ですか。」と静かに声をかけたが、反応がなかった。
声をかけられて嫌な思いをしているのでないかと、私は次の言葉をかけられない。
明るい空が見えるのに、雨は降り続いているので傘を彼女に向けたまま、彼女のゆっくりとした歩調に合わせている。
どうしたら良いのかと考えながら、ぼんやり遠くに視線を向けていると。
彼女は、私を見上げるようにして「大丈夫です。」と。
大丈夫だから、私に気にしないで行ってください ... というニュアンスには感じない口調だっので。私は頷いて、そのまま傘をさし続けていた。
青山通りに出る前に、「家は近いのですか。」と聞くと。
間を置いて、「ちょっと、遠いいです。」予想に反して、はっきりした口調で明るさのある声だった。
彼女は、現状をようやく理解したようで、この姿でこれからどうしようと考たのだろう。携帯がなかった頃なので。
このビッシャリに濡れた姿でタクシーに乗れるのかなと思いながらも。
「タクシーで帰ります?」
「私、今何も持っていないので。お金も持ってなくて。」
「私が持っているから大丈夫。」と言ってお金を渡そうとしながら思いついたのです。
「あの〜。ちょっと先だけれど、銭湯があるので。・・・着替え、私が見つけてくるから。・・・もしよかったら。」
私のそのアイディアに積極的にはなれなかったのだろうが、他に方法がないと思ったのだろうか、時間をかけて同意してくれた。
表参道方面に向かって、青山通りを越えた裏道にある、今は現代風にに改装した清水湯という銭湯に向かった。
雨はまだ降り続いていている中、ほとんど沈黙状態。
銭湯が見えた時、「30分くれます。急いで服を見つけてくるから。」
銭湯の女性に、着替え服を持ってくることを話すと、驚きと興味のある様子で了解してくれた。タオルなど入浴用具も購入して。
私は、少し小降りになってきた青山の街を駆け出して、今は無くなってしまったベルコモンズというファッション商業施設に入って3階へ急ぐ。
知り合いのブティックで、鮮やかなグリーンが入った白ベースのプリント柄のワンピースをすぐに選んだ。
女性スタッフに、状況を話してアンダーウェアを見つけてもらう。
そして、濡れた服を入れるための大きめのビニール袋を一緒に入れてもらった。
「お化粧品は?」と聞かれ、私は気が付かなかったのでお願いした。「適当に見つけてくるね。」と協力してもらった。
私は、ステップフロアを降りたところにある靴店に向かう。サイズが微妙だったのでミュール系の白地の靴にした。急いで、私の持っているドレスの入った袋にそのまま入れてもらう。
とても急いでも、20分位かかって店を出た。
外に出ると雨は完全に止んで、すっきりとした夕方の青山の空に変わっていた。
私は、何かの大事な役割を果たす気持ちで懸命に銭湯に戻る。
そして、銭湯の前で何故か楽しい待ち時間を過ごしていたのです。経験のない達成感を勝手に感じていて。
彼女は、照れたように銭湯を出て来た。
でも、颯爽としている。濡れた服類は、全て処分したようで手ぶらで。
しまった、小さなバッグも必要だったかな。
7月の雨上がりの夕方、着替えた姿の彼女はスタイルが良く、とても爽やかに見える。私のコーディネートも満更でもないと得意気に心の中で喜んだ。
でも、私の気持ちはとても純粋だったのです。
あの時は驚くほどピュアに ”お手伝いしたいミッション” をこなしている気分だけで。
青山通りに出て、タクシー代を渡そうとしたのですが、ためらうような雰囲気。
すぐに帰りたくないのかなと考えて、
「軽く、お食事でもします?」と、言ってはいけないことを言ってしまった気持ちだっのですが。
すぐに頷いて、「お腹空いちゃった。」
茶目っ気のある口調で。
先ほど買い物したベルコモンズの隣のビルにあるイタリアンレストランのサバティーニに誘いました。彼女は、このお店でお食事するのに十分な素敵なファッション感だったから。
スパークリングワインの ”フェッラーリ” を飲みながら、彼女が今着ている服を選んだ話から始まって。
軽いファッションの話などしながらゆっくりパスタなどをを食べました。
でも、その日の出来事は、私も聞かないし、彼女もしない。
まるで、あのずぶ濡れの出来事が無かったような時間を過ごしました。
知らない人と、食事をしている不思議な時間。
「明日でも、明後日でも時間と場所を決めてくれませんか。お金をお返ししたいので。」と言われたが。
「いいですよ。こんなことは、私にとっても普通にはない事だったから。」
私は、彼女と再び会わないことの楽しさを選んでいた。会わないでいることが印象的な思い出になるのだろうと想像していたのです。
そして、本当に純粋な気持ちだったし、何か下心的な思いがないことをはっきりと伝えてたくて。
繰り返し、約束を求められたが断わりました。
電話番号の書いたメモをもらったのですが、私は電話することはありませんでした。
でも、私にとって忘れることのできない出来事ではありましたが。
夏の終わりを感じる日。
その頃は、ほとんど車で通勤していたのですが、その日はたまたま地下鉄で帰るため外苑前の出入り口に向かっていると。
彼女が目の前にいたのです。
何度も、何度も見つけに来たと言う。
もう、彼女と会うことはないと思っていたのに。
私たちは、この二度目の出会いで仲良くなってしまいました。
彼女との、それからの思い出はたくさん残っているのに、あの日のずぶ濡れの出来事には一度も触れることがありませんでした。
色々と私は想像しましたが。
おそらく聞けば答えてくれたのでしょうが、私からはその出来事の話はしなかったからでしょう。
今彼女は、ちょっと著名な方の奥さんになっています。
思い出すままに、1時間も長いストーリーを描き続けていると、一切耳鳴りを忘てさせてくれて私の治療時間になりました。
文章にもこだわらず、特に演出しないで自分が楽しむだけの物語を綴って。
書き終わった長めの文章を、かなり抜粋してブログに載せてしまいました。
真面目な ”恋愛ごっこ” が好きだった私。
自分だけで思い出せば良い、他愛もない話ですが。