あと一日で週末です。
土曜日、、行けたらお気に入りのショップに行くんだ❤️

この作品の最大のピンチ(?)は、主演の獣王子役の俳優さんが、開幕直前に電撃退団してしまったことです。
あれは、もうあと数日でギャランティナイト(開幕前のお披露目的公演)を迎える頃。
獣王子が本物の王子に変身する仕掛けの、テクニカルリハーサルを行った直後のことでした。


このトランスフォームシーンは、お城の床に秘密があります。とても長身なことで知られていたこの俳優さん。王子に戻る時に体が空中で回転するのですが、頭や足先が床にぶつかるのではないか?と本気で心配するほどスラリとした方です。
若かりし頃は剣道を習っていたとか。あの長い手足でしたら、さぞかし強かっただろうと思います。

その変身シーンの仕掛けを試し、次は照明も音も入れてのリハーサルを行う予定でした。
役者さんの着替えやマイクチェック、照明のテスト(バリライト大活躍!)を行なっていましたが、私はのんびり客席で仕掛けの試運転?を見ていました。このシーンは、私の操作するピンスポットの出番は無いのです。完全にお客さんに戻って客席にいたその時です。

舞台裏の方で、大きな大きな怒声が聞こえました。激昂しているという表現がぴったりです。
劇団特有のあの発声、朗々と響く張りのある声。
何を叫んでいるのか聞き取れませんでしたが、怒声の主は、あの獣王子役の長身男優で間違いありません。

何かトラブルがあったのだと、きっとスタッフに不手際があり怒ったのだと咄嗟に思ったのです。舞台裏には何人か同期も居ましたし、照明が原因の怒りなら、部内皆で謝らねばと席を立って、舞台前の銀橋を通り、舞台袖まで来たその時です。

「こんな所(劇団)で、やってられるか‼︎」
そう吐き捨てるように叫びながら舞台裏の小部屋から彼が出てきました。そしてクルリと回れ右をして、劇団の人に背を向け、俳優用の出入り口から大股で出て行ってしまったのです。足の長い彼なので、あっという間に後ろ姿も見えなくなりました。

残された者たちは、口をあんぐり開けて、彼の背中を見送りました。何があったのかさっぱりわかりません。

トランスフォームシーンのリハーサルを控え楽屋に着替えに戻ったはずです。何か衣装さんとのトラブルだったのでしょうか?
そんなはずはありません。劇団きっての2枚目だった彼は、ユーモアもあり楽しく優しい(時に軟派でいい加減な)人で、女所帯の衣装部にはとりわけ優しく人気者でした。
それなのに突如激昂するとは思えません。

何があったの?隣にいた舞台監督部と衣装部の同期に小声で尋ねました。

その時、呆れたような困ったような顔で姿を見せたのは、劇団の代表であり演出家であったあの方です。ざわついていた役者もスタッフも、みんな口を閉じました。

「さあやろうか」
代表の声を聞いて、みな我に帰りました。

そうです。リハーサルをする予定だったのです。
王子役は2人います。前回書いたように、東京公演担当と大阪公演担当。
長身の彼は東京担当でしたが、このままだと大阪担当の方が、先に開演する東京公演担当に繰り上がるのは必至です。
そちらの役者さんのリハーサルをキチンとしておかないと開幕できません。

みな持ち場に帰りました。黙って、なにも見なかったのだと自分に言い聞かせながら。

私も出番は無いながらも、ピンスポットの小部屋に帰りました。突然のことに驚きましたが、何があっても対応できるように、リハーサルを持ち場から見ることにしました。 

みんなの胸に生まれたのは、「ちゃんと開幕できるのか?」という不安です。
けれど、開幕後半年分のチケットは既に売り出され、ほとんど売り切れていました。1年どころか複数年のロングランの予定なのです。
出だしからつまづく事は出来ないので、何も無かったように初日にこぎ着けなければ。
チケットを買って、開演を楽しみに待つ人がいるのだということを強く認識した日でした。

あの時何があったのか?
後々劇団内で色々語られておりました。
後編は明日。
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