仕込みが始まり、まず取り掛かったのが、バトンに灯体を吊り込むことでした。
バトンといっても既存の劇場のように、電源の口(コンセントの受け口)は付いていませんので、仕込み位置に灯体を取り付けた後は、先がいくつかに分かれている「タコ」と呼んでいるケーブルに灯体のコンセントを繋ぎます。
同時に付けたり消したりする灯体を、同じケーブルに繋ぎます。例の劇団裏の道で、せっせと作った20メートル超えのケーブルです。
そのケーブルは、地下にあるユニットと呼ばれる装置に繋ぎます。ユニットは、外部からくる電源の分岐供給装置だと思ったら良いかな。
繋ぐ時には、色んな「お約束」があるのですが、分かり難い事なのでここでは省きます。

「吊り込み」(バトンに取り付ける作業)は、仕込み図を見ながら行います。舞台を天井から見た平面図にバトンの位置が書かれていて、その各バトンのどの辺りに、どんな種類の灯体を取り付けるかが、記号で記入されています。同時に点灯させる灯体は、一本の線で繋いであります。

仕込み図は手前が客席側、向こうが舞台奥。右が上手で左が下手として書かれている決まりです。

ここでめんどくさいのが、舞台上で吊り込みする時は、一般的に舞台奥に背を向けて客席を見ながら吊り込んでいくんですね。
バトン中央から袖幕側に向かって吊り込むのが一般的なのですが、下手側(体の右側)に吊り込む時には、仕込み図の左側を見ながら作業しないといけません。
これ、やると分かるのですが、慣れるまでは面倒くさいです。体は客席に向いているのに、仕込み図は客席が自分の手前にあるのがややこしい。左右逆なんです。
新人さんやバイトさんが、手伝ってくれる時は、気をつけないと反対側で同じ物を吊り込んでいる時があったりします。(照明って、上手と下手で対称ではない事がほとんどです。上手と下手対称で吊り込んでしまうと、間違っている方がやり直しになります。私は幸いやらかした事はなかったですが、これやるとチーフに怒られます。全国公演で昼公演有りの時などは、時間との戦いなので、やり直しってなると、ほかの部署にも迷惑がかかるのです)
慣れないうちは、仕込み図を天地逆にして吊り込んだりしていました。




吊り込み後、ケーブルに繋いで地下のユニットまで降ろす作業は、アメリカのスタッフが驚くほど早かったです。1日2本は吊り込みが終わっていました。スクローラーやらsource fourとそれらの付属品、バリライトなどもあっての1日2本なので、かなりハイペースです。ロスでは、1週間に1本だったとか。
日本人は、段取り8割なところがあるので、散々卓上で打ち合わせをしていますので、当たり前って言えば当たり前かな?アメリカは出た所勝負なのかもしれませんね。

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仕込み図↑こんな感じです。これはかなりシンプルに見えますね。



ちなみに、灯体をどうやってバトンのような丸棒に取り付けるかわかります?
まず、灯体に「ハンガー」と呼ばれる、専用の引っ掛け金具を取り付けます。
そのハンガーは「?」マークのような形をしています。丸い所をバトンに引っ掛けて、ネジを締めるとバトンに取り付けられます。万が一の落下防止のために、カラビナで取り付ける補助ワイヤーが灯体に付いているので、それをバトンにクルリと巻けば完了です。
このワイヤーがとても大切で、ハンガーのネジが甘くなっている事が時々あり、このワイヤーのおかげで落下しなかったという事例をいくつか経験しました。
多分、月影先生の顔に落ちた灯体には、このワイヤーが無かったのでしょう。大事にならないようにつける保険がワイヤーなのです。 (分かります?ガラスの仮面 笑)

ハンガーそのものは、以前は灯体にネジで取り付けていましたが、今では上から押し込むだけでOKなワンタッチの物が殆どです。灯体を持ち運びするときにはハンガーは外しますので、ワンタッチは有難い。仕込みもバラシもウンと楽になりました。しかもアルミ製で軽いんです。

舞台は、未だに尺貫法の世界です。仕込み図にもグリッドが引かれてますが、一間ごとまたは半間ごとに引かれています。私は両腕を広げると大体一間なので仕込みの時は便利でした。バトンには、センターラインの印はあるのですが、一間毎に印が付いていないことが殆どなのです。両腕を広げて一間を計り、仕込み図と照らし合わせて吊り込み位置を決めていました。裏方は皆さん大体の寸法は両腕を広げて測ってるんじゃないかな?
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近くの桜の木です。咲きましたーーー。