当時、劇団には、大小合わせると10近くの稽古場がありました。(歌の個人レッスン用ピアノ室も)
ファントム小屋が、裏方の一時しのぎの事務所として使用されていた経緯は書きましたが、その間に建設されていたのが、裏方各セクションの部屋と、技術部の事務室、稽古場がいくつかと、屋根裏の倉庫を備えた新館でした。
以前からある棟と、小さな通路でつながっており、さながら修学旅行で泊まる、増築しまくった温泉旅館のようでした。

入団後の夏に新館は完成し、無事ファントム小屋からの引越し作業は終わりました。大きな機材はO町の倉庫に移してあったため、作業は案外簡単に、半日かからず終わりました。
小さな搬入口もあり、ワゴン車が数台停められる程度の広さがあった、新館の前面道路辺り。私たちは、またもやここでコード作りに励むことになったのです。劇場で働く裏方は、コンサートスタッフに比べて色白さんが多いはずなんですが、あの頃は焼けてましたね、私。

あまりあてにならない(なんせコロコロ歌詞や台詞が変わる。団内メール便でその連絡が来る)台本を貰いましたが、ロス版の映像を観ていた私は、殆ど開くことなく終わりました。何回か観れば覚えますよね。

薔薇を連想させる赤い表紙の台本でしたが、本番付きを外れたり退団する際は、返却しなければなりません。著作権管理に厳しいネズミー社らしい対応です。(他の作品では、そこまで念押しされることはありませんでした。一応返してきましたけどね)
また、作品内のトリックや種明かし的な事も、口外しないように言われました。とは言え、トニー賞の特番などで、大抵の事は種明かしされてるんであんまり意味の無い口止めでした。
カップ役の子が入っているワゴンの中の仕組みとかさ。見たらわかるだろう?っていう仕掛けもありますし。

新事務所に移った私たちを待っていたのは、コード作りと英語ぜめでしたガーン(いや、そういうプレイじゃありませんよ。仕事で、です)
元になったのは、英語のアニメーション映画ですし、舞台初演地も英語権でしたので、作品の歌詞や台詞のみならず、全ての指示がネズミー社から英語でやってきます。
外国からのサポートスタッフには通訳がつきますが、アメリカから来るメールやファックスや郵便には翻訳は付いておりません。当然、団内の英語堪能なスタッフが訳してくれるんですが、休んだり多忙で外出、出張となると、自分たちで訳さなければならない時がありました。特に、部署のアドレスにダイレクトで入ってくるメールは自分達で訳す事が多かった記憶があります。

今のようにグーグル翻訳があるわけでも、電子辞書の機能が充実しているわけでは無かった時代です。チーフクラスの方皆んなが、辞書と首っ引きになっている事がありました。
また、劇場もそれ用に専用の物を建てましたので、照明機材や仕込み位置なども、可能な限りアメリカ版と同じにしなければなりませんでした。
全てがアメリカ版の模倣になりそうで、いくらネズミー社の作品といえども、これが日本でも受けるのか、疑問に思うときもありました。ランドのパレードとは趣旨が違いますからね。

照明だと、ムービングのバリライトやソースフォー(source four)などは、当時の劇団ではほぼ初めて使用した灯体です。
(source fourは、灯体内部のレンズの組み合わせによって、照射角度が4種類あることからこの名が付いたらしいです。また舞台で使う時は、レンズの先に回転する種板を、、、模様の切り込みがある板を付けます。これを取り付けると出したい模様が舞台床や道具に映し出せます。作品では1幕終わりのシーンで、スプーンとフォークの柄を背景の皿をイメージした道具に映し出しています。1つの灯体に2枚の種板を付けて回転させたので、ツインスピンと呼んでいました)

全てがアメリカ仕様である事に苦心していたのは私達だけではなく、道具さんや衣装さんも同じでした。
衣装さんのところには、参考としていくつかの服やアクセサリー類が届いていましたが、身長170やら175センチの俳優さんサイズで作られていたために、サイズ感が全く掴めず困っていた様です。劇団の女優さんは特に小柄でしたからね。スカート丈1つとっても、膝あたりなのか、ひざ下なのかが分からないといった具合です。デザイン画はありますが、実物を見てみないとなんとも言えないようでしてね。

ある時、呼び止められました。どうやら裏方の新人に、身長が高い子が居ると聞いてきた様で、、、私です。
あるシーンで、ダンサーが背中にお皿を背負うんですが、資料として受け取った、皿の直径が大きいんですって。俳優さんが背負うとふくらはぎ近くまであるらしい。半径何センチまで小さくすればいいのか、、、取り敢えず私に背負わせてみようと考えたとの事でした。
私が背負うと、ちょうど膝丈でした。
「ありがとう。これからも何かあったらよろしく」って言ってお帰りになられました。他にも、何かマントみたいなの羽織ったっけな。
やはり海外の方は、皆さん大柄です。サポートに来日された方もみな大きくて、外国に生まれたかったな、と本気で思った私です。
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