20年前の私の青春の思い出話です。
今とは違うんだろうな、、、と思って読んでください。

面接マニュアルみたいなものには、
面接室へはノックをして、中から「どうぞ」の声がかかったら「失礼します」と言って入りましょう。 
なんて書いてあるはずなのですが、この時は先輩さんが、扉を開けっぱなしで押さえててくれ、「入ってねー」と言ってくださいました。なので、ノックもどうぞも省略でした照れ

入ると、3人の面接官がおられまして、真ん中の‘偉いんだよー’という雰囲気の方のみスーツ着用。脇のお二方は、先輩さんと同じくラフな格好でした。少し離れたところに、ほとんど発言されませんでしたが、サングラスをかけた年配の男性が座っておられました。舞台照明界では有名な方でして、S田さんとおっしゃる方です。

私が入るのと入れ違いで、先輩さんは出ていかれました。きっと次のグループを呼びに行ったんでしょう。
偉いさんに「座ってねー」と声を掛けられ、ありがとうございます。と言って用意されている椅子に腰かけたのですが、見るとそこも稽古場の1つでした。

小さな稽古場で、鏡とバーがあるのみ。小さいと言っても、踊れるくらいはありますがアンサンブルの稽古には向きません。ソロや台詞合わせ、歌の稽古に使う所でしょう。
劇団には、第1稽古場のような大きな所だけでなく、小さな稽古場も多くありました。歌の稽古に使える、ピアノだけを置いてある小部屋もありました。俳優さんがそれだけ多く、演目も多岐に渡るので当たり前と言えば当たり前なのでしょうが、舞台イコール食えない仕事という認識の日本において、なんて恵まれた環境なんでしょう。この時は、隣の敷地で更に稽古場の増築をしていた最中でした。

さて、席につくなりスーツの‘偉いさん’(実際、当時の照明部長さんでした)に、
「今日はたくさん来てるんでねー。みんなと話すとなると長くなっちゃうから、サクッと済まそー」と明るく言われ、椅子から落ちそうになりました。緊張してると思ってほぐしてくれたのか?と思いましたが、入団後に聞いたら本音でした。
第1グループだけで早くも面接官群は挫折しそうになってたそうです。

入団した後、某D社(ネズミのいるあそこ)のミュージカルの仕込みが始まるのですが、東京と大阪の二箇所ほぼ同時にロングラン公演が開始されました。そのため仕込みやら本番付きやらのスタッフはもちろん、その他の子供向けミュージカルや、既に開幕しているロングラン、全国公演のスタッフもやりくりしなければならないため、この時は通常では考えられないほどの新人を採用しました。どうりで面接に20人以上呼ばれていたはずです。
私達の前年は男女各1名のみ。なのに、この年は男性3人女性7人の新人を採用し、一気に所帯が倍近くになりました。採用のない年も珍しくない中、この大量採用は各部署でプチパニックを起こしておりました。

1人の面接時間が10分としても、20人強で4時間弱。半日がかりの大仕事だったと思われます。
そりゃ、サクッと済まそうってなるよね。
終わる頃には、第1グループの私なんか忘れられてたんじゃないかな?最後の面接志望者は、かなり待ったみたいですし、みんな大変な一日だったのでしょう。

聞かれたことは、まぁ一般企業とさして変わらず。志望動機や提出した応募書類からの質問事項。ずっとバレエの稽古を続けたことは評価していただき、けれど舞台に立つ側になれなかったことには同情もされました。
体型がひょろっとしていた私なので、体力があるのかどうか心配される方も多いのですが、バレエ故の体型なのは、劇団だけあってすぐにご理解いただけました。
劇団演出家さんも、「バレエを根気よく続けた子は根性がある」と団内でよく言ってくださっていたことも各面プラスに働いたのかもしれません。実際、元バレリーナの先輩がいらっしゃいました。
心配されたのは、表舞台に出られず、仕方なく裏に回ったのでは?という事。結局、表舞台が諦められず、裏方に徹することができない人がたまにいるそうです。
なぜ、自分が今日ここにいるのか、高校在学中からの話をかいつまんでお話ししたのを覚えています。へーと頷きながら聞いていただけました。

当初、黙って聞いておられたS田さんともお話しでき(当時は大御所とは知りませんでした。いや、名前は知っていたのですが、顔と一致しませんでしてね、、大変失礼いたしました)
「背が高いし、高いところや狭いところにも手が届きそうだねー。仮設の小屋はごちゃごちゃしてるから痩せてるのも有利だよ」
思わず期待してしまうような事を言われて、嬉しかったのを思い出します。ずっとコンプレックだった痩せの長身。活かせる道がありそうでした。
今日、ここまで来れたのもいい経験だったなーなんて思いながら、ありがとうございました。失礼しますと言って、面接室を出ました。

案内係の先輩さんが、外で待っておられました。「お疲れ様。このまま帰って良いんだけど、入り組んでるからね。出口わかる?」
そう言って、第1稽古場につながる廊下まで案内してくれました。
数度頭を下げて先輩さんにもお礼を言って、清々しい気持ちで劇団を後にしました。

食堂から美味しそうな匂いがしてきて、レオタードや稽古着姿の俳優さんが入っていくのが見えました。
お腹が空いた私は、でも胸がいっぱいで、途中何も食べずにそのまま田園都市線に乗って自宅に帰りました。

採用通知が届いたのは、それから1週間ほど後のことです。

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