若猫たちの話は暫く重一の話が続いた。不思議と誉める話に傾いている。

姿が見えなくとも重一の悪口を言うことが命取りになることが分かっているのかもしれない。
ほろ酔いの重一も上機嫌で聞いている。
半兵衛がそんな重一をからかった。
「お前え随分人気があるじゃねえか。」
ししし。楊枝をくわえて重一が笑った。
「日頃、甲斐甲斐しく面倒を見てるからな。ししし。」

と、そんな重一の耳に
「しかし」
と聞こえた。

しかし?
ピクリと重一のひげが動いた。

誰の声だ。
三五の汗が冷えていく。

「重一の叔父の理不尽な暴力はなんとかならんのか。」

やはり来てしまった。
三五の目が見開かれた。
脂汗がだくだくと流れる。

三五は己が失態を悟った。
なんとしてでも途中で止めるべきであった。

「そうじゃ。あれは酷い。
「口より先に手が出るからな。」
「昆虫並みの手の早さだな。」

うわあああ。
三五の脳裡に血の海に変じた屋敷が浮かんだ。
仁王立ちの重一に襟首を掴まれぐったりしているのは何故やら三五である。
重一がどのような顔で聞いているのか、三五には恐ろしくて到底知れぬ。

開いた瞳孔で自分の膝ばかり見つめている。

「その通りだぜ、重一よ。」
かかかと吉次の笑う声が聞こえた。
そして半兵衛の笑い声。

それを聞いて重一もまた「ししし」と笑った。「あいつら、明日にはひでえぜ。」

「それを止めろってんだ」
「ししし」

この結末は三五にとって存外である。
「あの」
と三五は重一に声をかけた。

「何でえ」
「怒らないんですか?」
「怒る?」
「陰口を叩かれて」
「陰口か。そうだな、ありゃ陰口だ。なに怒らねえさ。」
これが三五には意外である。「重一の叔父はそもそも気が短く、本性も所謂物分かりが良い類いではないのに一体何故ここで怒らないのか。」
「お前え、聞こえてんだよ。」
と拳骨で小突かれた。