この街はいつも雨が降っている。
「いつも」ではないかもしれないが
僕が訪れた時は「いつも」雨が降る。
この街では雨が降ると皆、灰色の服を着る。そんな規則があるのか定かでないが、
僕が見た時は「いつも」灰色を着ている。
灰色の服を着ると人々は
雨の景色に溶け込んで見えなくなってしまう。
僕は突然何かにぶつかって、目を凝らしてみると、それは小さな女の子だったりしてよく驚いたものだった。
女の子は決まって「良い雨を」と笑って言った。
僕は灰色のテントを張ったカフェーに立ち寄りルビーモスカートを注文する。仏頂面の店員は灰色のエプロンを付けてグラスを運んでくる。
灰色の世界の中でルビーのグラスだけが赤く揺れる。何を隠そう一番にこの雨を楽しんでいるのは仏頂面の大人たちなのである。運ばれたルビーモスカートを一口飲むと充分にそれは伝わってくる。
カンパリで赤く染められたスパークリングワインの炭酸がなんと弾けることか。
彼らの仏頂面は詰まるところ、雨に喜び込み上げる笑いを噛み殺している顔に他ならないのである。

ルビーモスカート
「サントリーカクテルレシピより」
カンパリによく冷やしたスパークリングワインを加える。