都んぼ版 夢十夜① | 桂米紫のブログ

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米朝一門の落語家、四代目桂米紫(かつらべいし)の、独り言であります。

妙な夢をよく見る。


夏目漱石や内田百間は、見た夢を文学にしたし、黒澤明は映画にした。

凡人の私の見た夢は文学にも映画にもならないが、『独り言』の文章ぐらいにはなるだろうと思い、ここに書き記してみる事にする。



第一夜『禿鷲』


私は友人達と共に、どこかの寂れた裏町に居る。

頭上を見ると、狡猾そうな目をした巨大で醜悪な禿鷲が、一本の電線に五羽、ひしめき合うようにして留まっている。

禿鷲達を気にしながらも、我々はその真下の路上で、何か立ち話を始める。

するとまるでそれを見定めたかのように、禿鷲達は大きな翼をいっぱいに広げて一斉に羽ばたき始め、眼下の我々に向かって猛烈な勢いで滑降の姿勢に入った。

戦慄に身体を凍り付かせた友人達は、禿鷲の刃物のように鋭い爪と翼に、次々と傷つけられていった。

ある者は首を斬られ、無惨にも絶命した。

恐怖に駆られながらも私は、友人達を傷つけられた事への復讐の念と、何より禿鷲のその醜悪な姿にはらわたが煮えくり返るような思いがして、そばに落ちていた角材を手に、禿鷲共に応戦を挑む。

格闘の末やっとの思いで一羽を地面に叩き落とし、私はとどめを刺そうとした。

すると、いつの間にか禿鷲は、私の愛する人に姿を変えていた。

不思議に思いつつも、私の復讐心と憎しみは、一向に冷める事がなかった。

私が手にしていた角材は、いつしか松明に変わっていた。

ためらう事なく私は、路上に横たわるその人に、火を放った。

復讐心を満たされた私は、痛快だった。この上もない満足を感じていた。

ところが目の前で燃えているのは、もう禿鷲ではなかった。

あろうことか私は、愛する人に火を放ってしまったのだ。

混乱の中で、そこで初めて私は、自責と後悔の念に胸が押し潰されそうになるを感じた。

しかし私には、もうどうする事もできなかった。

泣きながら燃えてゆくその人を、私はただ、立ちすくんで見つめるだけしかなかった。


立ち昇る煙が、いつの間にか出た三日月を、静かに覆い隠していった。


そして、全てが闇に包まれた。



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