何人かが集まって、アカペラで何か歌おう!という時、何らかの楽譜を用意するのが一般的ですが、市販されているものに満足できない場合、自分達で編曲(アレンジ)を施すことになります。

 

 僕が編曲する上で大切にしたいのは、その曲が、本来持っている「良さ」を極力ジャマしないようにすることです。大抵の曲にはポイントとなる箇所があります。それはいわゆるサビのメロディーなどのわかりやすい部分である必要は必ずしもなく、自分がその曲のどこに魅力を感じたか、という「ポイント」です。これがない曲というのは、編曲するにも非常にやりにくい。例えば、多くの人はサラリと聴き流してしまうであろう間奏の中のワンフレーズなどが、自分の感性を刺激してきたなら、そこを起点に編曲のアイディアが広がるということが少なくありません。

 

 編曲しようとする曲が、既によく知っている曲の場合、原曲(ここで言う原曲とは、△△という曲を◻︎◻︎が歌ったバージョンなどの「カバーもの」も含みます)を改めて聴き過ぎない方がいいこともあります。編曲するつもりで注意深く聴くと、これまで気づかなかった音やリズムを発見することがありますが、それよりも覚えている範囲でのイメージ、印象的なフレーズや響きなどを優先するわけです。

 

これは何故かというと、大抵の曲は、それがポップスであれジャズであれ、5つ以上の音が鳴っているわけで、これを残らず声にするのはそもそも無理だからです。何か特徴的なフレーズが鳴っている時、そのバックで流れる他の音の中には、思い切って省いた方がいいものもあったりして、この辺りは、こういう時にはこうする、と一概に言えるものではありません。

 

 僕の場合は、五線紙に向かうまでに何度もその曲が頭の中で流れますが、自分でも面白いと思うのは、この時アカペラで鳴るとは限らないことです。それはジャズのコンボであったり、弦楽四重奏であったり、フルオーケストラであったりします。その曲にとって最も自然、或いは効果的だと思われる演奏形態で、頭の中で完成形が鳴る。それをBe in Voicesの場合なら5つの声にどう振り分けるか、それがつまり僕にとっての「編曲」ということになります。

 

 こうして書き上げた楽譜をみんなで歌ってみると、今ひとつ面白くない、ということもある。頭の中ではいい感じなのに、です。失敗です。僕の場合、こんなケースでは「欲張りすぎ」が多いですね。聴こえる音をあれもこれも書いてしまった、などです。

 

そんな時、楽譜を前にさてどうしたものかと散々悩んでいると、メンバーの一人がサラリと「そんなん、こーしたらえーやん」などと、よ

く考えもせずにモノを言ったりするのですね。試しにその通りやってみると、これがまた悔しいことに面白かったりする。オレが散々アタマ

を悩ませた時間はどーしてくれる、というものです。時間をかけたからといって良いものができるわけではないという好例です。

 

……と、こんなことを繰り返しながら、今日もせっせと編曲をしているわけです。

 

 

Be in Voices

泉 かずしげ