「聞いてくれよ、ドヲえも〜ん」

 

いつもの様に部屋に飛び込んで来たのぴ。

 

のぴの部屋の真ん中には衝立が置いてあり、

部屋を二つに仕切っている。

部屋の入口側はのぴの領分だが、

反対側、則ち窓側はドヲ江の生活範囲である。

 

のぴがドヲ江に話し掛ける際は、常に衝立越し。

 

「今日学校でジヤイアン雄にさ〜」

 

のぴが取留めの無い話をしても、返事は無い。

衝立の向こう側には、人影も見えない。

 

町には人が溢れ返り、ひしめき合っている。

 

後の世で「空」と呼ばれるものを見上げると、

黒いもやもやが覆っていた。

目を凝らして見ると、おじいさんの顔に見えなくもない。

その表情は、見た事がある。

あの表情は……。

 

※※※

 

町には人が溢れ返り、ひしめき合っている。

道、建物、ありとあらゆる空間に人が溢れ返り、

ひしめき合っている。

 

のぴ「聞いてくれよ、ドヲえも〜ん」

衝立の向こう側からの返答は無い。

 

後の世で「空」と呼ばれるものを見上げると、

黒いもやもやが覆っていた。

その表情は、昨日とは違う。

あの表情は……。

 

※※※

 

のぴの部屋。

 

衝立はあるが、その陰に何者かの影は無い。

 

のぴが飛び込んで来る気配も無い。

 

町……道にも、建物にも、人の気配は無い。